33.ミステリ

2023年4月19日 (水)

【相棒】「名探偵登場」「名探偵再登場」亀山・神戸期に跨る傑作姉妹編 マーロウ矢木登場/元ネタの映画版についても

☆2023年11月22日放送の『相棒22』第6話「名探偵と眠り姫」に12年ぶりでマーロウ矢木が登場します。
☆それに伴いテレビ朝日では11月21日と22日午後に「名探偵登場」「名探偵再登場」を再放送します。

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「名探偵登場」 相棒 season5 第10話 2006年12月13日放送  初代相棒亀山薫期


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「名探偵再登場」 相棒 season10 第11話 2012年1月11日放送  2代目相棒 神戸尊期


『相棒』22年の歴史の中でも、コミカル色の強い傑作といわれる回で、しかも姉妹編です。
1本目が初代亀山薫(寺脇康文)時代、2本目が2代目神戸尊(及川光博)時代に亘っていて、
どちらも面白いというのもいい。
今回のブログではこの2本について、少し記します。

メインゲストは高橋克実さん。
マーロウ矢木」を自称する“チャンドラー探偵社”の私立探偵・矢木明を演じます。
名探偵というよりは“迷探偵”

マーロウ矢木は1本目である事件に絡み、なりゆきで初代特命コンビと共同で捜査をすることになります。
矢木はいかにもな迷探偵でありますが、右京も認める鋭さを垣間見せることもあり。
矢木の機転と人脈のおかげもあって、事件は解決します。

2本目は1本目から5年と少し経過、2代目相棒神戸尊の時代末期。
きっかけとしては、矢木がある事件で捜査一課に事情聴取されることなのですが、
結果的には矢木の方から2代目特命コンビに協力依頼して、また合同捜査という流れです。

この2本、なんといっても、高橋克実さん演じる矢木のユニークなキャラが魅力。
謎の悪女の登場など、ハードボイルドっぽい展開もいい感じです。
1本目の“悪女”は吉井有子(現 輝有子)さん。『相棒』にしてはセクシーな姿を披露してくれます。
2本目で“悪女”役を演じるのは、後に『警視庁・捜査一係長』の女性管理官 板木望子役で
警察ドラマファンにもお馴染みの顔になる陽月華さん。


ところで「マーロウ」とは?
ハードボイルド小説の巨匠レイモンド・チャンドラーが創造した
私立探偵フィリップ・マーロウのこと。
矢木は推理小説・ハードボイルド小説のマニアで、フィリップ・マーロウにあこがれており、
「チャンドラー探偵社のマーロウ矢木」などと名乗っているわけです。

マーロウが登場するチャンドラーの代表作『長いお別れ』と、
作中に登場する名セリフ「ギムレット」には早すぎる」、
カクテルのギムレットについて書いた記事は、当ブログの屈指の人気記事です。
「ギムレットには早すぎる」はマーロウのセリフではない/ギムレット超入門と『長いお別れ』

「再登場」では、カクテルのギムレットならぬ「ムギレット(麦レット)」もネタとして登場します。


タイトルの元ネタは外国映画
少し『相棒』から離れ、この2本のサブタイトル「名探偵登場「名探偵再登場」について。
これには元ネタがあり、いずれも1970年代制作のアメリカ映画の邦題と同名なのです。

『名探偵登場』(原題:Murder by Death) 1976年

『名探偵再登場』(原題:The Cheap Detective)1978年
脚本:ニール・サイモン 監督:ロバート・ムーア

両作とも私立探偵を主役とするパロディ作品。
邦題だと、2作目は1作目の続編みたいですが、そうではありません。
脚本・監督も同一で、極めて似たテイストではありますが。
1作目のヒットにより、よく似た2作目に続編のような邦題をつけたのです。
実際、同一シリーズと言っていいくらいテイストは似てますが、内容的には続編ではなし。

1作目は豪華キャスト勢揃いの、名探偵大挙登場映画。
古典ミステリ小説や映画の名探偵のパロディキャラたちが競演します。

2作目は、1作目で名探偵の1人を演じたピーター・フォークの単独主演。
フォークはいわずと知れた『刑事コロンボ』の主演俳優。

フォークが1作目・2作目で演じた役は同一人物ではないですが、よく似たハードボイルドタイプ
つまり、おとぼけ刑事のコロンボとはまったく逆ともいえるキャラを演じています。
直接のモデルとなっているのはマーロウではなく、こちらもハードボイルドの有名キャラクターサム・スペード

そういえば、『相棒』の1本目で、矢木はサム・スペードの名も、少しだけ出しています。
要約すると→「西日暮里ではマーロウ矢木、戸越銀座ではサムスペード矢木と呼ばれています


元の映画と『相棒』の2本のエピソード
タイトルが同じで、私立探偵を題材としたパロディ色の強いコメディである点は共通ですが、
ストーリーはあまり似ていません。

特に映画版第1作は名探偵総登場物なので、全然違う。
強いていえば、『相棒』の2本は、映画版第2作のパロディに近い、と言えなくもないですが、
それよりは本家マーロウシリーズ、つまりハードボイルド物のパロディと言った方がいいかも知れません。

1本目にはマーロウシリーズの『プレイバック』より、もうひとつの有名なセリフが出てきます。
男はタフでなければ生きて行けない。優しくなれなければ生きている資格がない。
2本目はギムレットが出てくるところは『長いお別れ』と関連がありますが、
ストーリー展開は『プレイバック』に近い面があります。


しかし、なんといっても、目玉は高橋克実さん演じるマーロウ矢木のキャラクター。
杉下右京(水谷豊)や亀山、神戸とのやりとりも面白く、他のゲストキャラも良い味を出しています。
『相棒』の新作放送中にこの2本が再放送されたら、マーロウ矢木再登場への布石か!
などと思うところですが、先月最新シーズンが終わったばかりなので、とりあえずありません。

Old Fashioned Club 月野景史

2023年1月 1日 (日)

『相棒21』2023元日スペシャル「大金塊」は江戸川乱歩「少年探偵団」へのオマージュ?!

正月恒例の『相棒』元日スペシャル、シーズン21第11話「大金塊」の放送が終了しました。

今回は江戸川乱歩作の『少年探偵団』シリーズのオマージュ的な作品でしたが、
ちょっと中途半端な出来だったように思います。

サブタイトルの「大金塊」は『少年探偵団』シリーズの一本(第4作)の題名と同様です。
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こちらは小林少年率いる少年探偵団が、名探偵明智小五郎の助けを借りて悪と戦うお馴染みの内容ですが、
『大金塊』は敵役が「怪人二十面相」ではありません。
その意味ではシリーズ全作の中でも、異色作といえます。

ただ、『大金塊」はシリーズ4作目と、かなり初期の作品なので、
前3作の怪人二十面相編から離れ、そろそろ新機軸をという意図だったのかも知れません。

二十面相が出てこないので、マイナーといえばマイナーの作品なのですが、

「ししがゑぼしをかぶるときからすのあたまのうさぎは三十ねずみは六十いはとのおくをさぐるべし」
(獅子が烏帽子をかぶる時、カラスの頭のウサギは三十、ネズミは六十、岩戸の奥をさぐるべし)

この宝探しの暗号が魅力的で、印象に残る作品です。
子どもの頃、熱心に読んだシリーズなので、題材として取り上げられたことは嬉しいです。


しかし、この『大金塊』と今回の『相棒』の「大金塊」、タイトルは同じですが、内容はあまり関係ありません。
「少年探偵団」に絡めて「熟年探偵団」を登場させたりしましたが、
主筋は昨年の元日スペシャルで登場した悪徳政治家と右京との決着編でした。

ここがちょっと中途半端だったかも知れません。
少年探偵団のパロディやるなら、もちろん最後は『相棒』的にきっちりまとめるとしても、
全体には“お正月番外編”的にファンタジー寄りにしてしまった方が、よかったようにも思います。
別に『相棒』にそのようなものを求めているわけでもありませんが、やるとしたらばです。


それにしても亀山復帰の『相棒21』も早や後半戦。
これからどのようにまとめていくのか?

Old Fashioned Club 月野景史

2022年8月10日 (水)

【ドラマ】 『初恋の悪魔』 珍しい警察職員による “合議制の安楽椅子探偵もの”(!?)

「この7月-9月クールのドラマはミステリ、事件捜査物が少ないな、
定番枠の『刑事7人』、『遺留捜査』、『警視庁強行犯係・樋口顕』以外は皆無ではないか」
などと思っていたら、タイトルからは推察不可能な、意外なドラマが警察ミステリでした。


Hatsukoi

『初恋の悪魔』(日本テレビ系 土曜22時-)
このタイトルでは、こじれた恋愛物、ラブサスペンスにしか思えませんが、実は謎解きミステリ。
しかも、大変珍しい、「合議制の安楽椅子探偵物」といえるかと思います。


安楽椅子探偵
(アームチェア・ディテクティブ、Armchair Detective)
ミステリ用語です。

自らは事件現場に赴いたり、捜査したりはせず、
捜査担当者から話を聞いて、真相を推理する探偵のことを指します。
自分は動かず、安楽椅子に腰かけたまま推理する名探偵、という意味合い。

古典的な推理小説において安楽椅子探偵物の元祖とされるのが
バロネス・オルツィの『隅の老人』シリーズ。
最も有名なのはアガサ・クリスティが創造した「ミス・マーブル」でしょうが、
マーブルは自ら捜査活動をすることもあり、この枠には入らないとの見方もあります。


縦軸と横軸
さて、ちょっとわかり難いのですが、連続ドラマを語るのに「縦軸」と「横軸」という言い方をします。
特に、警察系ミステリで使われることが多いです。

簡単にいうと、シリーズを通しての謎、解決すべき課題、テーマといったものが「縦軸」。
一方で、警察官が主役だと、縦軸の課題とは別に毎回色々な事件が起こり、捜査するのが一般的。
それらは一応一話完結で、その回ごとに解決する場合が多い。こちらをその回ごとのテーマとして「横軸」と呼びます。
が、どちらかというと「縦軸」の方が使われ、「横軸の事件」みたな言い方はあまりしないかも知れません。
※「縦軸」「横軸」は連ドラとは違うスタイルのストーリーでは、使い方も違ってきます。


『初恋の悪魔』
中心人物は比較的若い世代の男性3人、女性1人の4人組
(林遣都 仲野太賀 松岡茉優 柄本佑)
全員警察の人間ですが、そのうち男2人は「警察官」ではなく、「警察行政職員」。
残りの男女1人ずつは警察官ですが、それぞれ別の事情で事件捜査からは外れています。

縦軸と思われる謎がいくつか提示されており、
今後それがどう繋がっていくのか、というところでしょう。

一方横軸は、毎回色々な事件が起こりますが、
主役の4人組は捜査権はないのて、原則として捜査は出来ません。
そこで、林遣都を中心に、主に彼の家で “自宅捜査会議” を行ない、事件の真相を推理する、
というのが、今までのところ、毎回の定番になっています。
このスタイルを「合議制の安楽椅子探偵物」と表現してみました。

なかなか面白い趣向なのですが、残念ながらこの各回ごとの推理部分は、少し浅く感じます。
おざなりというか、ちょっとおまけみたいにも。
私はミステリ好きなので、そこを充実させてほしいと思うのですが、
ネットの意見を見ても、そこへ期待している人はあまりいなさそうです。

これからますます縦軸の方が混み入ってきそうなので、
安楽椅子探偵部分の充実は難しいのかも。
だとしても、今期の中で、楽しみにしているドラマです。


ところでこのドラマ、クレジット上は林遣都さんと仲野太賀さんのW主演なのですが、
上に貼った公式サイトのトップ画像だと、松岡茉優さんと仲野さんのW主演に見えます。
実は今のところ、ドラマの内容からも、仲野さんと松岡さんが主役とヒロイン、もしくはW主演で、
林さんは“トメ”に来るような役回りに感じます。
ここは林さんの役の動向しだいの面もあり、今後どうなっていくのかもポイントです。


Old Fashioned Club 月野景史

2020年7月10日 (金)

【ミステリ】戦後日本の名探偵 金田一耕助の登場時期

先月のブログでテレビドラマとの関係で、
日本推理・探偵小説の巨匠、横溝正史が生み出した二大名探偵である、
金田一耕助由利麟太郎について書きました。
http://oldfashioned.cocolog-nifty.com/blog/2020/06/post-d4d6c5.html

その中で、横溝にとって、
戦前の代表作が由利シリーズ、
戦後の代表作が金田一シリーズ、
と表現したのですが、それに対して、
金田一耕助が戦後の登場とは意外だ、もっと古いと思っていた、
戦前・戦中の話を読んだ記憶もあるが、
といった声をいただきました。

ある程度年配の方なら、この疑問を持つのもわかります。
私も最初はそんなふうに感じたような気がします。
金田一シリーズの代表的な作品はかなりクラシカルな雰囲気があります。


改めていいますと、金田一耕助の初登場は戦後の作品です。
それは間違いありません。
ただし、注釈があった方が親切かも知れません。
簡単に説明します。

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金田一耕助のデビュー作は1946年4月から新聞連載された『本陣殺人事件』
代表作のひとつです。
終戦翌年ですが、間違いなく“戦後”です。

ただし、この作品の舞台となっているのが戦前、1937年なのです。
つまり、作品の発表時期より9年ほど前の世界が舞台ということ。
戦前の話があったという記憶も間違いではないのです。
当時の金田一の年齢は二十代半ば。

横溝は本作の好評を受け、翌1947年には大作『獄門島』を発表します。
こちらは舞台を初作から10年後まで一気に飛ばして発表当時に近づけ、
戦後の1946年としました。

前作では20代半ばの若者だった金田一はその後、
太平洋戦争に従軍して辛酸をなめ復員、年齢も三十代半ばになっていました。
しかし、その辛い経験も探偵業に生きることになります。
ここから戦後日本を舞台に、名探偵金田一耕助の活躍が始まるのです。


Old Fashioned Club 月野景史


2020年6月17日 (水)

横溝正史が金田一耕助以前に生み出した忘れられた名探偵・由利麟太郎 令和にまさかの復活

6月16日(火)からフジテレビ系(カンテレ制作)のドラマ、
『探偵・由利麟太郎』がスタートしました。

由利麟太郎とは?
知っている人は少ないでしょう。
あの金田一耕助シリーズで知られる日本の推理小説・探偵小説の巨匠・横溝正史が
金田一より先に生み出した、もう一人の名探偵。



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ドラマ第1話の原作『花髑髏』(角川文庫版)


由利麟太郎シリーズは元警視庁捜査課長で私立探偵の由利先生と、
新日報社の新聞記者、三津木俊助とのコンビ物・バディ物として認識されています。
今回は由利麟太郎&三津木俊助シリーズの超入門です。


金田一耕助と由利麟太郎
金田一と由利、両者は活躍した時代がずれています。
由利は1933年に初登場、最後の登場が1950年。
一方の金田一は1946年が初登場で、1980年まで描き続けられました。
大雑把に言えば、横溝正史にとって戦前の代表作が由利麟太郎&三津木俊助シリーズ。
それと入れ替わった戦後の代表作が金田一耕助シリーズということになります。

時代的には由利シリーズの方が古いのですが、
地方の旧家を舞台にした土俗的な作品のイメージが強い金田一シリーズに比べると、
由利シリーズは都会的でスマートな印象がありました。

しかし、金田一耕助が日本の名探偵の代名詞と呼んでいいビッグネームになったのに対し、
由利&三津木は忘れられた存在といっていいでしょう。


もっとも、その金田一シリーズの道のりも平坦ではありませんでした。
戦後登場した金田一物は一躍人気シリーズとなり、
1940年代から1950年代には片岡千恵蔵らが演じて映画も多く作られました。
(その風貌は原作と違うスマートなスーツ姿が主流でしたが)
しかし、1960年代には過去のものになり、横溝の創作そのものも減っていきました。

それが1970年代に入り復権して大きなブームが起き、映画やドラマも数多く作られました。
この時期、角川文庫の横溝シリーズはその刺激的な表紙装丁も合わせて大人気となりました。

実は由利&三津木シリーズも角川文庫で多く刊行されており、
それなりの数の人々が読んだと思います。
私もその頃、由利作品にも親しんだのですが、
こちらが話題になることはほとんどありませんでした。

由利シリーズの作品が映像化されるとしても、原作通りに作られるのは僅かで、
探偵役が金田一に挿げ替えられることが多かったです。

その由利麟太郎と三津木俊助のバディが令和に連続ドラマで蘇るとは!


ドラマ『探偵・由利麟太郎』
原作は戦前の昭和の話ですが、今回は令和の現代に時代を移しています。
とはいえ、レトロな雰囲気を醸し出していましたが。

そして、舞台は東京から京都に変更。
これは何故でしょう?

制作が関西のカンテレだからか?
カンテレ制作だからといって関西舞台とは限らないですが、
今回は敢えて設定を変えたようです。
実際の制作に当たるのは『科捜研の女』などの東映京都撮影所。
舞台を京都にした方が、原作のレトロ感が出るという意味もあるのかも知れません。

由利先生役は吉川晃司、三津木役は志尊淳。
キャラクター設定も原作とはちょっと違うように感じます。
特に原作の三津木は新聞社の花形記者ですが、ドラマではミステリ作家志望の青年。
ここはそもそも原作の由利&三津木があまり知られていないので、
キャラを変えても面白いドラマになれば、あまり問題ないかも知れませんが。

その初回「花髑髏」を観ての感想ですが、
まず被害者・加害者側の人間関係を原作以上におどろおどろしくしてしまった面があるかと思います。
いかにも横溝作品らしいと誤解している人もいるようですが、原作通りではありません。

個人的には好きなタイプのドラマなのですが、
少々無理も感じました。


連続ドラマといっても全5話の短期集中型。
コロナ禍の前に撮影を終えていたのでしょう。
元々、オリンピックと重なる7月クールの放送予定だったとも聞きます。
あと4話、どんな世界を観せてくれるのか。

Old Fashioned Club 月野景史

2018年4月 7日 (土)

【ドラマ】アガサ・クリスティ『アクロイド殺し』ドラマ化/ミステリ史上に残る特異なトリック ※原作ネタバレあり

★このブログページには原作小説のネタバレがあります。

アガサ・クリスティの傑作ミステリ『アクロイド殺し』(『アクロイド殺害事件』)を
原作とした翻案ドラマ『黒井戸殺し』が4月14日フジテレビ系で放送されます。
http://www.fujitv.co.jp/kuroido/index.html


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先日も書きましたが、近年クリスティ原作のスペシャルドラマが毎年のように放送されています。
2015年1月にフジテレビが『オリエント急行殺人事件』、
2017年3月にテレビ朝日が『そして誰もいなくなった』を放送。
今年の3月にはテレ朝が『パディントン発4時50分』と『鏡は横にひび割れて~』を原作としたドラマを放送しました。

そして今度はフジが『アクロイド殺し』。
2015年の『オリエント』と同様に三谷幸喜さん脚本、
原作のエリキュール・ポアロにあたる探偵役を野村萬斎さんが演じるので、
『オリエント』の続編というか、同一シリーズものといっていいでしょう。

本項ではひのドラマの話題に合わせ、
世界のミステリー史に特異な足跡を残す原作小説についても書いていきます。



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アガサ・クリスティ(1890年9月15日 - 1976年1月12日)。
イギリス出身。20世紀のミステリの女王。


その数多い著作の中でも代表作を3本挙げろと言われたら、
前述の『オリエント急行殺人事件』と『そして誰もいなくなった』、
そしてこの『アクロイド殺し』ということになるでしょう。

タイトルにある「アクロイド」とは殺人被害者の名前。
(ですので、今回の日本版ドラマでは黑井戸さんという人が殺されるのでしょう。)

しかし、本作は代表作であると同時に異色作、そして問題作ともいわれます。
何が異色であり、問題なのか。
原作小説について、ネタバレも含めて記します。


『アクロイド殺し』(『アクロイド殺害事件』)
原題 『The Murder of Roger Ackroyd 』1926年

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物語の語り手が犯人
本作の主人公はクリスティが生んだミス・マーブルと並ぶ名探偵エリキュール・ポアロ。
そして登場人物の1人が一人称の語り手を務め、その主観により語られる一人称小説です。
つまり、シャーロック・ホームズシリーズがワトスン医師により語られる記録の体裁を持つのと同じスタイル。

本作で語り手役を務めるのはジェイムズ・シェパード。
ワトスンと同じく医師であり、ポアロの助手的役割を務めます。
ただし、彼は本作で初登場の人物で、これ以前の作品でポアロの助手だったことはありません。
それまでのポアロ登場作では、別の人物が語り手を務めていました。

そして物語のラスト、このシェパード医師こそがアクロイド殺害の犯人だったことが判明するのです。


一人称小説の語り手が犯人!
大胆にして異色、そして画期的なトリックです。
同時に、謎解き小説として読者に対してフェアと言えるのか?
アンフェアではないかとの論争を呼びました。

ですので評価が分かれる面もあるのですが、
クリスティの代表作のひとつ、そしてミステリ史上の傑作としての評価はほぼ固まっていると思います。

それにしても、このような奇抜なアイデアですから
クリスティもあらゆるトリックを散々やり尽くした末に出してきたのかと思いきや、
1920年のデビューから1973年に至る創作活動の間で
本作が1926年というごく初期に書かれたのも意外です。
彼女の先進性、大胆なチャレンジ精神を感じます。


映像化の難しい作品
本作は映画やドラマ化の難しい作品とされます。
日本で映像作品かされるのは初めてとのこと。

ホームズシリーズをはじめ、一人称ミステリの映像作品化は珍しくありませんが、
その場合、原作が一人称小説である意味は薄れ、
三人称小説を原作とした場合と同様の客観的な表現・描写になるのがほとんどだと思います。
その点では、『アクロイド』も映像化すること自体が極端に難しいとも思えません。

しかし、『アクロイド殺し』は一人称の語り手が犯人であることが最大のトリックであり、売りです。
その部分をぼやかして映像化してしまったら、何が作品の魅力になるのか?
ここをどう捉え、どのような切り口で映像として表現するかがポイントになると思います。

もちろん、真犯人が原作通りなのかは断言はできません。
大胆に変えてくる可能性もゼロではありませんが、
いずれにしろに三谷幸喜さんの腕の見せどころでしょう。


粒ぞろいで数多い主要キャスト
前述のように原作のポアロにあたる主役の名探偵・勝呂武尊(すぐろ・たける)を演じるのは
日本の伝統芸能・狂言の第一人者と言われている野村萬斎さん。
そしてシェパードにあたる医師・柴平祐は大泉洋さん。
宣伝物等を見る限り、この2人のバディドラマみたいです。


ところで、私は原作小説を少年時代に読みました。
真相に辿りつくことはできませんでしたが、
読み進むにつれ「なんかおかしい」と違和感を覚えていました。

推理小説ですから、犯人は誰かを推理しながら読むのですが、
犯人候補となる人物がラスト近くになってもさっぱり浮かび上がってこないのです。
そうしたら、語り手が犯人だったというオチでした。


今回の出演者一覧を見ると、
クリスティ物にありがちな超豪華キャストというよりも、
粒ぞろいの俳優を、とにかく数多く揃えている印象です。
原作小説にはこんなに多くの主要人物がいただろうかと疑問に感じたりしています。

そして大泉さんをはじめ、三谷さんが執筆した大河ドラマ『真田丸』の出演者も多い。
遠藤憲一さん、斉藤由貴さん、吉田羊さん、松岡茉優さん、藤井隆さん、今井朋彦さん。
他に寺脇康文さん、余貴美子さん、草刈民代さん、向井理さん、佐藤二朗さん、和田正人さんら。

 

この俳優達が脇役の登場人物をいかに演じ、どんな『アクロイド殺し』になるか。
私も少年時代から馴染んだ小説のドラマ化であり、楽しみです。


◆◆◆
ところで、このブログでも書いてるように、
不倫騒動で『警視庁・捜査一課長』と『西郷どん』への出演を辞退した斉藤由貴さんが、
このドラマには出演します。
といっても、実はこのドラマの撮影は不倫発覚前だったからで、ドラマ復帰したわけではないようです。

このドラマはもう1人、不祥事で謹慎中の小出恵介さんも本来出演していて、
その部分は撮り直したともいわれています。
難産の末にようやく放送となったということか。
出来はどうでしょうか?

Old Fashioned Club  月野景史

2018年3月26日 (月)

【ドラマ】「アガサ・クリスティ 二夜連続ドラマスペシャル」/ミス・マーブル作品をテレ朝が2作放送

テレビ朝日は3月24日と25日に『アガサ・クリスティ 二夜連続ドラマスペシャル』を放送しました。


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ここのところ毎年のように、豪華キャストでクリスティ原作の日本版翻案スペシャルドラマを
放送しているような気がしますが、実はテレ朝版とフジテレビ版があるのです。

2015年1月にフジテレビが『オリエント急行殺人事件』を放送しました。
2017年3月にはテレビ朝日が『そして誰もいなくなった』を放送。
こちらは渡瀬恒彦さんの遺作としても話題になりました。
そして今年は今回の二夜連続スペシャルに続き、
4月14日にフジが『アクロイド殺し』を原作とした『黒井戸殺し』を放映予定です。


さて、今回の二夜連続ドラマスペシャルは前後編ではなく、別々の作品を2日連続で放送しました。
24日『パディントン発4時50分~寝台特急殺人事件~』
25日『大女優殺人事件~鏡は横にひび割れて~』

共に上に名前が挙がった3作ほど有名ではありませんが、
クリスティが生んだエルキュール・ポアロと並ぶ名探偵ミス・マーブルが登場する作品が原作です。



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ミステリ・推理小説の女王アガサ・クリスティ

私も好きな作家ですので、このように翻案ドラマが作られるのは嬉しいことです。
もちろん、国も時代も違う舞台の作品なので、脚本や演出は大変でしょうが、
観る方もあまり細かいことは拘らず、古典作品の雰囲気を楽しみたいところです。

ただ、そのようなスタンスに立ったとしても、今回の2本はちょっと残念な出来でした。


『パディントン発4時50分~寝台特急殺人事件~』
ミス・マーブルは安楽椅子探偵タイプとされます。
つまり、自分自身はあまり捜査に動かず、伝聞で得た情報から推理をするというスタイルの名探偵。
特にこの原作ではスーパー家政婦の女子を屋敷に潜入させ、彼女が実質の主人公として活躍するのです。

今回のドラマではマープルのポジションを天海祐希さん、家政婦を前田敦子さんが演じました。
しかし、アクティブなイメージのある天海さんにほぼ原作通りの安楽椅子探偵をさせており、
ここはちょっと無駄使いで、もったいなく感じました。

前田さんは好演だったとは思いますが、
せっかくの天海さん主演なのだから、家政婦役にするか、あるいはもっと話を変えるかして、
ともかく天海さん自身が屋敷に乗り込んで活躍するようにした方がよかったです。

その他の人物描写も全体に甘いような気がしました。


『大女優殺人事件~鏡は横にひび割れて~』
こちらは昨年の『そして誰もいなくなった』で最後に謎解きをする警視庁の刑事役だった
沢村一樹さんが同じ役で主演として名探偵ポジションを担いました。
この時点でマーブルとはまったく違う探偵役によるミステリドラマです。

これはこれでいいとして、捜査する側がプロの警察官になったのだから、
後は犯人と被害者、及び周囲の人間のドラマをしっかり描かねばならないのですが、
特に犯人の動機や心情が共感も理解すらできませんでした。


というわけで内容は今ひとつだった2本ですが、
クリスティ作品のクラシカルで荘厳な、ちょっと現実離れした雰囲気を味わうのは楽しく、
次の作品に期待したいところです。


視聴率は
24日『パディントン発4時50分~寝台特急殺人事件~』12.7%
25日『大女優殺人事件~鏡は横にひび割れて~』は9.8%

『バディトン』は合格点。
『鏡は』はもう少しで二桁でしたが、裏番組も強い改変期としてはますまずというところでしょうか。

Old Fashioned Club  月野景史

2017年3月25日 (土)

【ドラマ】『そして誰もいなくなった』渡瀬恒彦遺作 前編終了/原作通りの結末か、サプライズはあるのか?

3月25日(土)、26日(日)21時にテレビ朝日で放送される
『二夜連続ドラマスペシャル そして誰もいなくなった』。
http://oldfashioned.cocolog-nifty.com/blog/2017/03/32526a-0710.html


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初日の放送が終了し、残りは後半の解決編を残すのみです。

ミステリの女王アガサ・クリスティ(1890年9月15日 - 1976年1月12日)代表作のドラマ化。
国も時代も違うのだから、原作小説そのままというわけにはいく筈もありませんが、
可能な限りで極めて原作に沿って手堅く作られていると思います。
孤島に集められた10人も、きっちり原作のキャラクターに合わせられていました。


さて、結末はどうなるのでしょう。
ひとつの手法として、今回はそうしないとは思いますが、
前半は原作通りにやっておいて、後半は思い切って変える、
というサプライズもないとはいえません。

その場合、キーマンは向井理さんでしょうか。
向井さんの役は一番先に殺され退場してしまいました。
原作通りならそのままです。

ただ、大物俳優が揃えられた本作のキャストですが、
現在、連続ドラマで主役を務められる主演スターはそれほど多くはありません。

刑事役の故沢村一樹さんを除く離島に集められたメンバーとしては、
故渡瀬恒彦さんの他には、今回主演の仲間由紀恵さんと、後は向井さんくらいでしょう。
実際、クレジット順でも向井さんは仲間さんに次ぐ二番手です。
それにしては退場が早過ぎました。

のみならず、全員が過去について語るシーンでも、
向井さんだけが赤裸々にありのままを語っているようにも思え、かえって不自然だったり、
また役柄の設定も、他のキャラに比べ、原作からちょっと離れているなど、
違和感を覚える面もあります。


しかし、今回は手堅く「名作の忠実な映像作品化」といくように思います。
後は刑事役の沢村一樹さんと荒川良々さんによる解決編をどう見せるかというところでしょうか。

03

このホームズ&ワトスン的なコンビもなかなかユニークです。

Old Fashioned Club  月野景史

2017年3月21日 (火)

【ドラマ】『そして誰もいなくなった』渡瀬恒彦遺作 3月25日・26日放送/A・クリスティの傑作ミステリ

3月25日(土)、26日(日)21時、テレビ朝日にて、
『二夜連続ドラマスペシャル そして誰もいなくなった』が放送されます。
http://www.tv-asahi.co.jp/soshitedaremo/
3月14日に死去した渡瀬恒彦さんのおそらく最後の出演作、遺作ということになると思います。


Photo


渡瀬恒彦さんの遺作
渡瀬さんの闘病についてはこのプログでも何度か取り上げてきました。

一昨年に胆嚢がんが発覚した渡瀬さんはその年の末に仕事復帰しましたが、
昨年夏に体調を崩し、長く務めたTBSの『十津川警部シリーズ』の降板が伝えられました。
しかし、今年に入ってこのドラマの撮影中である事が報道されたのです。(→こちら

次いで12シーズン目を迎える『警視庁捜査一課9係』の制作も発表されたのですが、
残念ながら収録に参加する事なく亡くなりました。
ですので、今回の『そして誰もいなくなった』が最後に出演した作品、遺作という事になると思います。


女王アガサ・クリスティの傑作
さて、渡瀬さんの件は別としても、
このドラマはアガサ・クリスティの名作小説の、豪華キャストによるドラマ化として注目されます。

ミステリ、推理小説の女王アガサ・クリスティ(1890年9月15日 - 1976年1月12日))
『そして誰もいなくなった』は1939年刊行。
彼女の数多い作品の中でも『オリエント急行の殺人』『アクロイド殺害事件(アクロイド殺し)』と並ぶ代表作でしょう。
その中でもNo.1、最高傑作に推される事が多い作品です。

『オリエント』『アクロイド』と違うのは、
クリスティが生み出した名探偵エルキュール・ポアロが登場しないこと。
のみならず、クリスティ作品のもう一人の名探偵、ミス・マープルも出ません。
いわゆる“名探偵”が登場しない作品です。

絶海の孤島に集められた10人の間で起こる連続殺人。
犯人は果たして誰か?
外界から閉ざされた空間で起こる事件、いわゆる“クローズドサークル”の代表的作品です。


二つの結末
実はクリスティは原作発表後、舞台化にあたり自ら戯曲用のストーリーを書きました。
そちらでは結末が少し違います。
その後、この作品は世界中で何度か映画、テレビドラマとして映像化されてきましたが、
基本的に戯曲版が採用されることが多かったようです。
また、意外と“孤島”の舞台設定が変えられる事も多かったのです。

今回のドラマは“孤島”という原作通りの舞台設定が採用されています。
そして、公式サイトのあらすじを読む限り、戯曲版ではなく原作小説に沿った展開であるようです。
そうなると、集められた人物の職業から、真犯人も推測できるのですが、
さてそこは原作通りに描くのか?

私は原作の展開の荘厳さが好きなので、その通りに描いてほしいと思うのですが、
この配役でその通りにやってしまうと、2日連続のスペシャルドラマとしては
ちょっと意外性がなさ過ぎかも知れませんが。

原作が有名過ぎるだけに難しいですね。
さて驚愕の真相は・・・? 続きは明日までお待ちください!
とやって、原作通りの結末ではちょっと寂しい気もします。
もっとも、それもまた新鮮かも知れませんが。


公表されている出演俳優は以下の12人。

仲間由紀恵 向井理 柳葉敏郎 余貴美子 國村隼
藤真利子 大地真央 橋爪功 津川雅彦 渡瀬恒彦
沢村一樹 荒川良々

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3月3日の制作発表に揃った11人のキャストと和泉聖治監督(前列右端)。
残念ながら渡瀬さんの列席はありませんでした。


渡瀬さんを含む12人のうち、
沢村さんと荒川さんは事件後の島に渡って捜査を担当する警察官のようです。
残りの10人が島に集められたということですので、ここも原作通りです。

記者会見での荒川さんの発言によれば、沢村さん以外のキャストとは撮影で一緒になってはいないようです。


公式サイトからあらすじを引用しておきます。
☆☆☆
八丈島沖に浮かぶ孤島・兵隊島。その孤島に立つ『自然の島ホテル』のオーナー・七尾審によって10人の男女が島に呼び寄せられる。

七尾からの招待状を受け取りやってきたのは元水泳選手の白峰涼(仲間由紀恵)、元東京地裁裁判長・磐村兵庫(渡瀬恒彦)、元国会議員・門殿宣明(津川雅彦)、救急センター医師・神波江利香(余貴美子)、元傭兵・ケン石動(柳葉敏郎)、元女優・星空綾子(大地真央)、ミステリー作家・五明卓(向井理)、元刑事の久間部堅吉(國村隼)の8人。島に到着するも、ホテルの執事夫婦・翠川信夫(橋爪功)とつね美(藤真利子)からオーナーの七尾は不在であることを伝えられる。

これから何が起こるのか、自分たちはなぜこの島に招待されたのか―期待と不安に包まれながら用意された夕食をとっていると、突如としてどこかから彼らの過去の罪を暴露する“謎の声”が聞こえてくる。

それぞれの胸の内に去来する過去の出来事…。10人が互いの過去を探り合う中、突然招待客のひとりが目の前で殺害される! そしてそれをきっかけとするように、ひとり、またひとりと招待客が殺されていき…?
★★★

このあらすじを読めば、原作小説の内容を憶えている人なら、犯人はすぐに判ります。
原作通りならば・・・。

脚本は大ベテランの長坂秀佳さん。
近年、テレビドラマの仕事は多くはありません。
監督は『相棒』や渡瀬さん主演の『おみやさん』などを手掛けてきた和泉聖治さん。
さて、原作通りにやるのか、捻るのか?

Old Fashioned Club  月野景史

2015年11月 8日 (日)

【相棒】アガサ・クリスティ『オリエント急行の殺人』を基とした4本のエピソード

ミステリの女王アガサ・クリスティの『オリエント急行の殺人』。
(または『オリエント急行殺人事件』 原題「Murder on the Orient Express」1934年)

Photo

欧州を縦断する長距離列車内で起きた殺人事件に名探偵エルキュール・ポアロ(ポワロ)が挑む。
その舞台設定の面白さに加え、明かされた驚愕の秘密とプロットで知られる傑作推理小説。
後発のミステリーに与えた影響も少なからぬものがあります。

『相棒』シリーズにも、この作品をベースとした話が、少なくとも4本あると思います。
といっても、『オリエント急行』のどの要素を基とするかで、そのテイストはだいぶ変わってきます。

もっとも分かり易いのはこの話でしょう。

◆season6 第10話 (2008年元日スペシャル)「寝台特急カシオペア殺人事件」
脚本:戸田山雅司 監督:和泉聖治
密室状態となった長距離電車内で起こった殺人事件を、
乗り合わせた杉下右京(水谷豊)と亀山薫(寺脇康文)が捜査する。
舞台設定がそのまま、そもそもサブタイトルだけ聞いても、誰でもすぐに思い付きます。

0610

元日スペシャルに加えてテレビ朝日開局50周年記念作で、2時間30分の大作。出演者も長山藍子さんはじめ多彩。
個人的には『ウルトラマン』ハヤタ隊員役の黒部進さん唯一の『相棒』出演作として印象に残ります。

ただ、この回は『オリエント急行』のオマージュとしてドンビシャですが、
これ以外に『相棒』で、長距離列車内の殺人といった舞台設定のエピソードは思い浮かびませんね。
では、他の3本はどのエピソードなのか?


改めて、『オリエント急行殺人事件』の特徴を挙げてみます。

①外界から閉ざされた、大きな密室状態の寝台列車内での殺人事件。
②犯行の動機は過去の少女誘拐殺人犯への復讐。
③同じ意志を持つ複数の人間による計画的犯行。
④関係者が他人を装って集まる。

「カシオペア」はまさに①です。
そしてやはり、①をモデルにした、つまり密室状態の長距離列車内での殺人扱ったを作品は
これ以外に『相棒』はないでしょう。

では、他の要素はどうでしょうか?

実は、②と③のテイストを併せ持つ作品が二つあります。

◆season5 第3話 「犯人はスズキ」 
脚本:岩下悠子 監督:森本浩史
http://www.tv-asahi.co.jp/aibou_05/contents/story/0003/
列車を“町内”あるいは“町内会”という器に移し替えたような異色の作品。
少女誘拐殺人事件の犯人への復讐という点はまさにそのままです。

ただし、『オリエント』での復讐殺人は、多数の関係者による計画性の高いものですが、
この回の復讐殺人は少女の父親による突発的なもので、計画性は乏しい。
そり代わり、事実を知った町内会の人々が父親を庇おうとしての偽装工作が計画的で、
それを右京と亀山が崩していくのがメインストーリーでした。

大変面白い作品なのですが、偽装の過程で誘拐殺人とは無関係の人間(犯罪者ではあるが、極悪人とまではいえない)を
計画の為に巻き込み、殺害してしまう点は同情できず、少々残念でしたが。

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『科捜研の女』に研究員→所長役で長くレギュラー出演する
斉藤暁さんの、現在までて唯一の『相棒』出演回です。
斉藤さんは元警官で、計画の首謀者の1人の役でした。

斉藤さんは水谷豊さんのひとつ年下の1953年生まれで、当時53歳。
劇中では警察官を定年(60歳)で退職したとは明示されていなかったと思いますが、
印象としては定年退職後の元警官という感じでした。


◆season8 第11話 「願い」
脚本:太田愛 監督:安養寺工
http://www.tv-asahi.co.jp/aibou_08/story/0011/index.html
これも少女誘拐殺人犯への復讐がテーマ。
ただ、少女といっても原作や「スズキ」は幼児ですが、本作では女子中学生なので、だいぶ年上です。
2代目相棒・神戸尊(及川光博)時代の作品。

この回の復讐は誘拐犯の殺害ではありません。
そもそも、少女の遺体は見つかっておらず、行方不明の状態です。
ですので、計画者達の目的は真相の解明と、犯人の告発ですが、
時効が過ぎているので、過去の犯罪で真犯人が逮捕されることはありません。

そこで、真犯人に新たな犯行をさせて逮捕させ、併せて過去の罪も明らかにして破滅させるのが目的です。
その為、少女の親族、親友、そして冤罪被害にあった男性の親族らが協力しての複雑な計画が描かれました。
無関係に見える人間達が実は繋がっているという点で、④の要素も入っています。
一方で、舞台設定の密室性は薄いですが。

0811

素人の復讐劇としては計画が大胆かつ念入り過ぎて、プロットに無理がありますが、
計画成功の為、忘れたい過去として事件に無関心を装う関係者達の隠された強い思いは感動的で、
私の好きな作品です。


さて、まだ他にあるでしょうか?
もうひとつ、④をフィーチャーした話があります。

◆season9 第12話 「招かれざる客」 
脚本戸田山雅司 監督:近藤俊明
http://www.tv-asahi.co.jp/aibou_09/story/0012/index.html
郊外のオーベルジュに偶然居合わせた客達、実はみな関係者であった。
そこに招かざる客の右京が現れて・・・。

過去の因縁で結ばれた人々が他人を装い、ひとつの場所に集う設定は『オリエント急行』に非常に近いです。
しかも、そのほとんどがある家の使用人であった点も同じ。
誘拐殺人は関係ありませんが、その家の娘に纏わる話であることも共通しています。

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そして、犯人だけではなく、探偵側の右京と神戸の計画的小芝居も魅力です。
更にいえば、全体に芝居がかっていて、舞台劇を思わせる雰囲気は、
クリスティ作品の持ち味が色濃く反映された作品と言えるのでしょう。

列車も誘拐殺人も復讐もないので、この回を『オリエント急行』と結び付ける人はあまりいないかも知れませんが、
元使用人達の主(あるじ)と、その家の娘(孫)への強いという点は共通しています。
作品の持つテイストでいえば、もっとも近いかも知れません。

この回はそれ以外にも、なにやらマニアックな雰囲気が漂っています。
小芝居の中で右京が演じたキャラは、『熱中時代』より前の若い頃の水谷さんの
封印されたアウトロー的な演技を彷彿とさせるものがあったりとか。
これも私の好きな作品です。


以上、4作を見てきました。
実は、ネット上にもこの4本のどれかを挙げて、『オリエント急行の殺人』との関係に言及する意見は散見されます。
しかし、4本まとめて挙げてる方はいないようです。

では、『オリエント急行の殺人』と『相棒』の決定的な違いは何か?
これは『相棒』ファンなら誰でもわかるでしょう。
ボアロと違い、右京は決して犯罪を故意に見逃したりしません。
私は、ポアロの判断も好きですが。

Old Fashioned Club  月野景史

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