02.Art 美術 (雑学 コラム)

2018年8月20日 (月)

【美術展】「没後50年 藤田嗣治展」東京都美術館/画業を俯瞰する大型店 もちろん乳白色の裸婦も

上野の東京都美術館では10月8日まで「没後50年 藤田嗣治展」を開催中です。

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没後50年 藤田嗣治展
Foujita: A Retrospective ― Commemorating the 50th Anniversary of his Death
2018年7月31日(火)~10月8日(月・祝)
東京都美術館

主催:東京都美術館(公益財団法人東京都歴史文化財団)、朝日新聞社、NHK、NHKプロモーション
後援:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本
協賛:損保ジャパン日本興亜、大日本印刷特別協力国際交流基金協力東京美術倶楽部、日本航空、日本貨物航空
特設WEBサイト http://foujita2018.jp


公式サイトには「没後50年の節目の機会に相応しく、史上最大級の規模で、
精選された作品100点以上を展示します。」とありますが、
確かに史上最大級と言って間違いない、壮大な藤田嗣治展です。



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藤田嗣治(ふじた つぐはる レオナール・フジタ  1886-1968)
明治半ばの日本で生まれ、80年を超える人生の約半分をフランスで暮らし、
晩年にはフランス国籍を取得して欧州の土となった画家。

古くはいわゆるエコール・ド・パリの芸術家の1人でもあり、
その生涯において専らフランスで活動したようなイメージもありますが、
実は戦前に帰国して日本を拠点としていた時期も長く、
太平洋戦争期の作戦記録画でも知られます。

戦後は再びフランスに渡って定着し、洗礼を受けてレオナール・フジタとなりました。
本展では藤田の戦争画も、後年の作品も充分に鑑賞できます
日本を始め、フランスを中心とした欧米の主要な美術館、パリのポンピドゥー・センター、
ベルギー王立美術館、アメリカのシカゴ美術館などの協力を得て、
藤田の画業全貌を俯瞰する大回顧展。

「風景画」「肖像画」「裸婦」「宗教画」などのテーマを設けて、
最新の研究成果等も盛り込みながら、藤田芸術をとらえ直そうとする試みです。


もちろん乳白色の裸婦も
しかし、画業全般はいいのですが、やはり藤田といえば
代名詞は「乳白色の下地」による裸婦画、ヌード。
ここが充実していなければ藤田展の決定版としては寂しい。

心配ありません。
数年前に修復を終えた大原美術館の『舞踏会の前』や
東京国立近代美術館の《五人の裸婦》など国内の代表作に加え、
海外からも1920年代の最盛期に描かれた「乳白色の下地」による裸婦像が集っています。


Photo
『タピスリーの裸婦』1923年
タピスリーとはタピストリーと同義。
背景にある室内装飾の織物です。

しかし、この絵はなんとも蠱惑的で素晴らしい。
20世紀の美神画です。


Old Fashioned Club  月野景史

2013年10月13日 (日)

【美術】日曜美術館10/13「「孤高の画家 夢を紡いで ギュスターヴ・モロー」/汐留で「モローとルオー」展も開催中

2013年10月13日放送のNHK『日曜美術館』のテーマは、
「孤高の画家  夢を紡いで ギュスターヴ・モロー」でした。
今回の番組は、この神秘と幻想の魅惑的な画家の入門編として、貴重な保存版でした。
見逃した方は、来週10月20日夜の再放送を是非チェックしてください。


ギュスターヴ・モロー
(Gustave Moreau, 1826年4月6日–1898年4月18日)
フランスの象徴主義の画家。
印象派の主要画家よりは少し年長。
作風は聖書や神話に題材をとった幻想的なもので、印象派とは一線を画します。

現在、東京のパナソニック 汐留ミュージアムでは、
展覧会「モローとルオー 聖なるものの継承と変容」が開催中です。
ギュスターヴ・モローとジョルジョ・ルオーの展覧会です。

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『パルクの死の天使』


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『ユピテルとセメレ』
共に「モローとルオー」展にて公開中です。
今回の番組は、司会の井浦新さんと伊藤敏恵アナがこの会場を訪れての進行でした。


ギュスターヴ・モローのキャリアには二つの特徴があります。
ちょっと聞くと、それが相反するもののように思えておもしろいのです。

ひとつは、今回の番組のタイトルにもなっている「孤高の画家」。

元々はエコール・デ・ボザール(官立美術学校)で学んだ人で、
作品自体はある程度の評価はされていきましたが、
実家に経済的余裕があったこともあり
ある時期からは実家に引きこもって母親と暮らしながら、
作品をあまり公表することも売ることもなく、創作を続けました。
だから、「孤高」などと呼ばれるのです。

やがて母親も亡くなり、モロー自身も老境を迎えた64歳の年、
病に倒れた友人の代わりとして、モローは母校エコール・デ・ボザールの教師となります。

時は19世紀末の1892年。
美術の世界にも変革が押し寄せつつありますした。

そこに、19世紀の画壇にすらあまり馴染めなかった、
64歳の偏屈な画家が教師として教えに行って、若い学生達と合う筈がない…、
と思うのですが、さにあらず、モローは名教師としてその名を残し、
モローに育てられた、多く20世紀の画壇を彩った多くの芸術家を残しました。

「孤高の画家」と「名教師」、ふたつの相反するように思える顔を持っているのです。

ルオーはモロー教室の教え子の一人でした。
大変親密な関係の弟子であったとされます。
つまり、開催中の「モローとルオー」展は、師弟による展覧会なのです。

モローは生徒達に自分の画風を押し付けることなく、自由な発想を尊重したといいます。
他にモロー教室から育った画家として、20世紀を代表する巨匠マティスがいます。


番組でも紹介されましたが、
パリにあるギュスターヴ・モロー美術館は、モローが亡くなるまで暮らした家を改造したもので、
世界で初めての、国立の個人美術館として知られます。

構想はモローが生前から持っており、モローにより原型が作られました。
美術館としてオープンし、国立となるのはモロー死後のことです。
そして、その初代の館長を務めたのがルオーだったのです。

今回の番組のゲストは美術家の森村泰昌さん。
この方のモロー論が大変おもしろかったです。
なぜなら、私もまったく同じように感じたことがあるので。

メディアを通しての印象から、細密な絵を描く人だと思っていたが、
実際に作品を観ると、たしかにそういう面もあるけれど、
なにこれ、完成作? 制作途中でないの?? などと感じるような絵もあるのです。
開催中の展覧会にも、そんな絵も展示されています。


モローとルオー 聖なるものの継承と変容
パナソニック 汐留ミュージアム
12月10日まで
http://panasonic.co.jp/es/museum/exhibition/13/130907/

巡回
松本市美術館 12月20日~2014年3月23日


Old Fashioned Club  月野景史

2013年5月19日 (日)

『日曜美術館』5/19 「アートの旅 中谷美紀 in 瀬戸内・直島」/不思議な存在感の女優さんの不思議な旅

5月19日放送のNHK Eテレ『日曜美術館』は特別編「アートの旅 中谷美紀 in 瀬戸内・直島」。
女優の中谷美紀さんによる、瀬戸内の直島(なおしま)の旅でした。
いつものスタジオも司会者もまったく登場せず。
以前、同様の企画を格闘家の須藤元気さんと、女優の水野美紀さんの出演でやっていましたね。
あの時は青森の旅でしたか。

さて、中谷美紀さんといえば先日、2014年のNHK大河ドラマ『軍師官兵衛』に、
主人公黒田官兵衛の妻、黒田光役での出演が発表されました。
主役の妻だから、ヒロインということになると思います。

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タイミングからいうと、タイアップという感じはしますが、まぁそれはそれ、
中谷さんというと、ちょっと不思議で独特の雰囲気、
どこかつかみどころのない、不思議な存在感のある女性、女優さん。

そして「アートのない生活は考えられない」と語る人だそうです。
彼女によるアート旅は、どこか現実離れした異界を散策しているようで、
なかなかよかったです。
だいたい美術館・ミュージアムとは非日常の空間ですよね。


さて、今回のドキュメンタリー(?)の舞台は瀬戸内の直島(なおしま)
実は、香川県と岡山県の沖合に浮かぶ島々では、今年、瀬戸内国際芸術祭が開催され、
大きな盛り上がりを見せています。
中でも、直島は、瀬戸内に現代アートが広がり始めた原点として、
海外からも多くのアートファンがやってくる人気のスポットなのです。
中谷さんも以前からぜひ行ってみたいと思っていたのだそうです。

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最初に訪ねたのは、安藤忠雄史建築の「地中美術館」。
モネの睡蓮(すいれん)の連作のために作られたぜいたくな空間でした。
印象派の大画家クロード・モネ。
モネはその後年、自宅の庭を舞台に睡蓮の絵を多く描きました。
この地にも、モネの睡蓮があったのですね。


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そして、海が見える小高い丘の上には、世界的アーティスト、杉本博司が造り上げた神社。
細い路地が交差する集落では、島の人々との思わぬ出会いが。
さらに、この旅の最大の目的となるスポットへと・・・。

「アートのない生活は考えられない」のだけど、
作家のパワーに圧倒されるからと、自宅にあまりアートを飾らない彼女が、
自ら購入した数少ない作品が、李禹煥氏の版画。
直島には2010年にオープンした、
李禹煥美術館(リ・ウーファンびじゅつかん、Lee U-Fan museum)があるのです。


この番組は5月26日夜20:00より再放送の予定です。
http://www.nhk.or.jp/nichibi/weekly/2013/0519/index.html


Old Fashioned Club  月野景史

2013年5月12日 (日)

【美術】5/12『日曜美術館』「ダ・ヴィンチ、ミケランジェロを越えろ ルネサンスの天才ラファエロ」/大画家の生涯を俯瞰

このブログでも予告編を書きましたが、
今日5月12日放送のNHK Eテレ『日曜美術館』のテーマは、
「ダ・ヴィンチ、ミケランジェロを越えろ ルネサンスの天才ラファエロ」でした。
http://www.nhk.or.jp/nichibi/weekly/2013/0512/index.html

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ラファエロ・サンツィオ『大公の聖母』(1505-6年)

東京上野の国立西洋美術館で6月2日まで「ラファエロ | Raffaello 」展が開催中、
『大公の聖母』は同展に来日・展示されています。

そのラファエロを知るにあたって、今回の番組は大変有意義な入門編でした。
この早世の大画家の生涯と、その時代・周囲を俯瞰できるような構成だったと思います。
次の日曜日、5月19日の夜には再放送されのすので、
見逃した方は是非チェックされるよう、お薦めします。

ゲストは漫画家のヤマザキマリさんでした。
映画もヒットした、あの『テルマエ・ロマエ』の作者。
さすがイタリアのこと、ラファエロについても詳しかったですね。

「ラファエロ | Raffaello」展
2013年3月2日(土)-6月2日(日)
午前9時30分~午後5時30分。金曜日は午後8時。入館は閉館の30分前まで。月曜休館
会場 国立西洋美術館
主催 国立西洋美術館、フィレンツェ文化財・美術館特別監督局、読売新聞社、日本テレビ放送網
後援 外務省、イタリア大使館
http://raffaello2013.com/


Old Fashioned Club  月野景史

2013年5月10日 (金)

【美術】雑誌『Pen』5/15号「ルネサンスとは何か。Ⅱ ダ・ヴィンチ/ミケランジェロ/ラファエロ 3大巨匠を徹底解剖」

アート関係の特集もしばしば掲載される雑誌『Pen』
月2回(1日と15日)発行の雑誌ですが、
最新5月1日発売の「5/15号」の特集は、
「ダ・ヴィンチ/ミケランジェロ/ラファエロ3大巨匠を徹底解剖。 ルネサンスとは何か。Ⅱ」です。
http://www.pen-online.jp/pen/latest

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「Ⅱ」とあるからには「Ⅰ」もあったわけで、
2012年の新年合併号が「ルネサンスとは何か。」だったのですが、
今回は三大巨匠に絞っての第二弾です。

レオナルド・ダ・ヴィンチ (1452年4月15日-1519年5月2日 67歳没)
ミケランジェロ・ブオナローティ(1475年3月6日-1564年2月18日 88歳没)
ラファエロ・サンツィオ(1483年4月6日-1520年4月6日 37歳没)

三巨匠については、このブログでも上野の国立西洋美術館で開催中の
「ラファエロ展」の話題を中心に、連日取り上げています。

更に、すぐ近くの東京都美術館では「ダ・ヴィンチ展」が始まりました。
そして、9月にはやはり国立西洋美術館で「ミケランジェロ展」も開催されるのです。


『Pen』最新号の内容を、アマゾンから引用して紹介します。
☆☆☆
【特集】ダ・ヴィンチ/ミケランジェロ/ラファエロ 3大巨匠を徹底解剖。 ルネサンスとは何か。2
14世紀イタリアに興ったルネサンス。
あらゆる価値観が劇的に刷新される中、美術史にその名を刻む、3人の天才が現れた。
深遠なる思索と驚異的な絵画を残し、いまだ謎を秘める“万能人"、ダ・ヴィンチ。
『ダヴィデ』やシスティーナ礼拝堂のフレスコ画で“神のごとき"と謳われた、ミケランジェロ。
2人に続くラファエロは、彼らから早々と学び、37歳で夭折するも、崇高な“美のカノン"に到達する。
15世紀後期から16世紀にかけて、同時代を生きた3人の革新性は、後世の芸術家たちの道を照らし、燦然と輝く。
盛期ルネサンスの頂点を極め、いまなお世界中の人々に畏敬の念を抱かせる、3大巨匠の偉業を徹底解剖する。
★★★

それぞれの偉業と合わせて、
三者の関係も俯瞰できる貴重な資料、
展覧会鑑賞や関連テレビ番組視聴にあたっても、良い参考書だと思います。

表紙に使われた作品を説明しておきます。
いずれも、それぞれの代表作の一部をクローズアップしてますね。

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右 レオナルドの『最後の晩餐』より。イエス・キリストのアップ。
中 ミケランジェロの彫刻『ダヴィデ像』より。上半身。
左 ラファエロの『サン・シストの聖母(システィーナの聖母)』より。上部。


Old Fashioned Club  月野景史

2013年5月 9日 (木)

【美術】5月12日放送予定『日曜美術館』は「ダ・ヴィンチ、ミケランジェロを越えろ ルネサンスの天才ラファエロ」

今週日曜日、5月12日放送予定のNHK Eテレ『日曜美術館』のテーマは、
「ダ・ヴィンチ、ミケランジェロを越えろ ルネサンスの天才ラファエロ」です。
http://www.nhk.or.jp/nichibi/weekly/2013/0512/index.html


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その前日、5月11放送のテレビ東京系『美の巨人たち』テーマ作品は、
ラファエロ『大公の聖母』。
http://oldfashioned.cocolog-nifty.com/blog/2013/05/511-7a23.html


東京上野の国立西洋美術館で6月2日まで「ラファエロ | Raffaello 」展が開催中、
そして、『大公の聖母』は同展に来日・展示されています。
http://raffaello2013.com/
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会期も残り一ヶ月を切ったこの時期、
土日二日連続の“ラファエロ・ウィークエンド”となるようです。


番組のサブタイトルは「ダ・ヴィンチ、ミケランジェロを越えろ ルネサンスの天才ラファエロ」。
このブログでも、ラファエロと共にルネサンス芸術の三大巨匠と称される、
レオナルド・ダ・ヴィンチ、ミケランジェロとの比較をメインに
ラファエロについて書きました。
http://oldfashioned.cocolog-nifty.com/blog/2013/05/post-c739.html
今回の番組もそのアプローチを採るようです。


以下、番組公式サイトより引用

☆☆☆
ダ・ヴィンチ、ミケランジェロを越えろ ルネサンスの天才ラファエロ
15世紀から16世紀にかけて、わずか37年という短い人生でありながら、レオナルド・ダ・ヴィンチ、ミケランジェロとともに、「ルネサンスの三巨匠」とたたえられる芸術を作り上げた天才画家がいた。画家の名は、ラファエロ・サンツィオ(1483-1520年)。作品の貴重さゆえ、展覧会はこれまでヨーロッパ内でしか開かれてこなかったが、この春、日本に傑作の数々が来日した。ラファエロの神髄は聖母子像。従来の聖母子像とは異なり、親しみやすく理想の女性美をたたえた表現は画期的で、フィレンツェで瞬く間に人気を博した。しかし、ラファエロの生きたルネサンスの時代には、レオナルド・ダ・ヴィンチやミケランジェロら巨匠らがラファエロより早く名声を博していた。さらにラファエロは、37歳で早世したと思えないほど、多くの作品を残し、建築や都市計画まで関わっていた。ラファエロは巨匠たちの中でどのようにして独自の画業を切り開いたのか。幅広く膨大な量の仕事をどうやって成功に導いたのか。天才画家ラファエロの創作の源に迫る。

出演 ヤマザキマリさん(漫画家)
★★★

タイトルと紹介文を読むと、ラファエロは既に名声を得ていたダ・ヴィンチや
ミケランジェロを目標に、追い付き・追い越せと頑張っていたように思えます。
しかし、ラファエロの経歴を見ると、もちろん先輩達を強く意識し、
勉強していたことは間違いないのですが、
こと周囲の評価という点では、少なくとも並ぶところまでは、
瞬時に到達したような印象があります。

いずれにしろ、前日の『美の巨人たち』では来日中の絵画作品『大公の聖母』を解題、
対して『日曜美術館』では、周囲の芸術家をも含めたルネサンスという時代にこだわり、
そこからラファエロを浮き彫りにする趣向のようです。

ゲストは漫画家のヤマザキマリさん。
『テルマエ・ロマエ』の作者ですね。
三大巨匠が活躍したローマの専門家…、
といっても、『テルマエ・ロマエ』のテーマは古代ローマですが、
ルネサンス期のローマをどう語るかも楽しみです。


「ラファエロ | Raffaello」展
2013年3月2日(土)-6月2日(日)
午前9時30分~午後5時30分。金曜日は午後8時。入館は閉館の30分前まで。月曜休館
会場 国立西洋美術館
主催 国立西洋美術館、フィレンツェ文化財・美術館特別監督局、読売新聞社、日本テレビ放送網
後援 外務省、イタリア大使館
http://raffaello2013.com/


Old Fashioned Club  月野景史

2013年5月 7日 (火)

【美術】ラファエロ超入門/日本初の本格展開催中、レオナルドとミケランジェロとの比較から探るルネサンス最大の画家

ルネサンス美術の巨匠、ラファエロ・サンツィオ。
東京上野の国立西洋美術館では3月2日から6月2日まで、
日本初の本格回顧展となる「ラファエロ | Raffaello 」展が開催中です。

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ラファエロ展来日中の『大公の聖母』(1505-6年)

そして、今週土曜5月11日放送のテレビ東京系『美の巨人たち』、
翌5月12日(日)のNHK Eテレ『日曜美術館』と、二日連続でラファエロ特集です。
会期も残り一ヶ月を切ったこの時期、やや遅まきながらの「ラファエロウィークエンド」となりますね。

ラファエロについてはWikipediaの項目にも長大な記述がありますが、
英語版を直訳したものなのか、なんだかさっぱり解りませんね。
ごく簡潔な概要が知りたいのに…。
というわけで、こちらも遅まきながらですが、このブログならではのラファエロ超概略・入門編です。


ラファエロ・サンツィオ
(Raffaello Sanzio 1483年4月6日 - 1520年4月6日)

Wikipedia日本語版では「サンティ(Santi)」となっていますが、
英語版、イタリア語版、フランス語版とも「Sanzio」です。

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『自画像』(1504-6年) ※来日中


ルネサンス三大芸術家
さて、ラファエロが紹介される時、
レオナルド・ダ・ヴィンチ、ミケランジェロと並び、
ルネサンスの三大巨匠と形容されることが多いですね。
ルネサンスについては、このブログで超入門を書いてますので、よろしければ参照を。
http://oldfashioned.cocolog-nifty.com/blog/2012/01/post-2628.html

おそらく、日本での知名度ではラファエロは他の二人に劣るでしょう。
ですので、この二人と比較するとラファエロの概観が浮かび上がり、解り易くなると思います。
まずは三人の生きた年代を比較してみましょう。

レオナルド・ダ・ヴィンチ (1452年4月15日-1519年5月2日 67歳没)
ミケランジェロ・ブオナローティ(1475年3月6日-1564年2月18日 88歳没)
ラファエロ・サンツィオ(1483年4月6日-1520年4月6日 37歳没)


一番年長はレオナルドで、ミケランジェロはその23歳下、ラファエロは更にその8歳下です。
レオナルドが少し離れて上で、ミケランジェロとラファエロは比較的近いですね。
しかし没年では、37歳で急病により早世したラファエロは
67歳と当時としてはまずまず長命だったレオナルドと、僅か1年違いで亡くなっています。
88歳と長寿だったミケランジェロが亡くなったのは、ラファエロ没の44年後です。

この三人はごく大雑把にいえば、同時代に同じ地域で活躍したといえます。
三人とも今でいうイタリアの生まれ。
ルネサンスの聖地フィレンツェで修行して名を挙げ、
教皇庁のあるローマに招かれ活躍しました。

実はレオナルドのキャリアは結構複雑で、他にも重要な地名があり、亡くなったのはフランスなのですが、
ミケランジェロとラファエロは、だいたいその二ヶ所が活躍の場でした。
明確な記録はありませんが、三人それぞれ接点もあったといわれています。

上で述べたように、ラファエロは早世の画家でした。
ルネサンスの時代、彼は短い一生をどのように生き、どう評価されたのでしょう?


ルネサンス最大の“画家”
私は、ラファエロはルネサンス最大の画家といっていいのではないかと思っています。
しかし、そこまで言い切っているのは、聞いた記憶はありません。
他の二人より上だと断定できるのか?

まず第一の根拠は、残っている“絵画作品”の量が断然多いのです…、
というよりは、他の二人が極端に少ないのですが。

そして、ラファエロは短い生涯にも関わらず、生前からローマ教皇庁の絶大なる信頼の下、
画家として圧倒的な高評価を受け、死後、その絵は長く西洋絵画の規範(canon=カノン)となりました。

では、他の二人はどうなのか?

『モナ・リザ』『最後の晩餐』など、絵画でも超有名作を残したレオナルド。
しかし、13歳頃に工房に弟子入りし、67歳で亡くなるまで制作を続けたにも関わらず、
レオナルド作と認定される絵画完成作品は、僅か10数点しか残っていません。
多くが紛失したとも考えられてもいるわけでもありません。
実際、遅筆で寡作の人だったのです。
一方、「万能の天才」と呼ばれ、画家、芸術家という枠だけで括れるの人ではなかったのですが。

彫刻『ダビデ像』で知られるミケランジェロは、
自ら、「自分は画家ではない、彫刻家だ。」と発言した記録が残っています。
絵画では、壮大な天井画や壁画が残っており、
それはまさに美術史上の大傑作、神のなせる業かと思いますが、
額縁に入れて飾り鑑賞するような、私達のイメージする西洋絵画はほとんど残ってないのです。

対してラファエロは、まさに“美”の画家。
短い人生で、壁画も大傑作がありますが、額装して鑑賞するような絵も多く残しました。
特に「聖母子像の画家」と呼ばれています。
今回来日している『大公の聖母』もそのうちのひとつですが、
聖母マリアと幼いイエス・キリストを描いた聖母子画の評価は圧倒的で、
欧州各国の大美術館の至宝となっています。

つまり、“最高の画家”となると異論もあるでしょうが、「最大」はラファエロでしょう。
高い評価の伴った絵画作品の数量がまったく違うのですから。

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『小椅子の聖母』(1513-4年)
私の一番好きな絵です。美しさ、愛らしさの極致。

その経歴
おおまかなラファエロの立ち位置、評価が解ったところで、
改めてそのキャリアを、ごくごく簡単に追ってみます。

1483年、イタリアのウルビーノの宮廷画家の家に生まれたラファエロは、
父の死と前後して1494年頃、11歳くらいで絵の修行を始めたとされます。

1500年(17歳)で画家として一人前の“親方”として登録。
1504年頃(21歳)に芸術の都フィレンツェに移住、売れっ子となり次々傑作を送り出します。
『大公の聖母』もこの頃、1505-6年頃の作品とされます。
しかし、芸術の都であったフィレンツェは競争も激しく、
ラファエロの顧客は専ら商人など個人が中心で、教会の壁画などの大作は残していません。
といっても、まだ二十歳そこそこだったのだから、無理からぬところだったのかも知れませんが。

1508年、ローマ教皇ユリウス二世に招かれてローマに移ったラファエロは、
教皇庁内の壁画を描く大仕事を受注します。
そこで代表作となる『アテネの学堂(アテナイの学堂)』を初めとする傑作を作り上げ、
20代半ばで当代随一の画家となりました。
そして、1520年に亡くなるまでの10年あまり、数多い顧客からの注文に応じて旺盛に創作に励み、
その名声は高まり続けました。

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アテネの学堂』(1509-10年)


人物像
ラファエロは社交的で誰からも好かれる好人物だったといわれます。
大工房を経営し、多くの弟子を育てました。

教養も大変高く、早くから教皇庁の文書係、
後には文化庁長官のような役職にもつきました。
芸術家、学者、経営者、指導者、そして教皇庁高官、
いずれも超一流、非の打ちどころがありませんね。

一方で、結婚の記録はなく、女性に関しては奔放だったともされます。
死因は熱病とされてきましたが、性感染症との説もあるようです。
しかし、上に書いたような人物評価が定着しているのですから、
破滅型だったとは思えません。


無念
若くして画家として最高の栄誉を得て、死後は西洋画の規範となり、
その作品は現在、ヨーロッパ各国の大美術館の至宝となっています。
「世界中の美術館で」と書きたいところですが、なにせ欧州各国の宝物として保有され、
多くの作品が残っているにも関わらず、欧州以外にほとんど流出してこなかったのです。
アメリカにさえ、ごく僅かしかありません。もちろん、日本にはまったくないです。

それほどの実績を残してはいますが、その早過ぎる死はやはり残念でなりません。
晩年を迎え、その絵は更に進化と深化を続けているように思えるからです。
本人は死にあたり何を思ったのでしょう。
人の何倍、何十倍の密度で生きた人です。
充分と思ったか、いや、やはり無念だったのか。

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遺作『キリストの変容』(1520年)
バロック絵画を百年先取りしたかのような、
ダイナミックで躍動感溢れる構図、劇的な明暗表現、強烈な色彩。
後年は大工房で50人のスタッフを率い、多くの作品を仕上げていたラファエロですが、
この絵は、ほぼ自分一人で描いたと考えられています。
もっと長生きしていたら、どのような域に至ったのでしょう。
想像するのは楽しくもありますが、またはかなく切ないです。


「ラファエロ | Raffaello」展
2013年3月2日(土)-6月2日(日)
午前9時30分~午後5時30分。金曜日は午後8時。入館は閉館の30分前まで。月曜休館
会場 国立西洋美術館
主催 国立西洋美術館、フィレンツェ文化財・美術館特別監督局、読売新聞社、日本テレビ放送網
後援 外務省、イタリア大使館
http://raffaello2013.com/


Old Fashioned Club  月野景史

2013年2月27日 (水)

ラファエロとミュシャ 美しき共演

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駅張りのポスター、ラファエロとミュシャのツーショットです。
いよいよせまってきました。

今週土曜3月2日より、国立西洋美術館でラファエロ展がいよいよ開幕します。

その1週間後、3月9日から森アーツセンターギャラリーにてミュシャ展が開幕。
しかも同日、Bunkamuraザ・ミュージアムではルーベンス展が開幕します。

今年の春は美術ファン、特に西洋絵画のファンにとっては、
実に楽しみな季節になりそうです。


Old Fashioned Club  月野景史

2013年2月19日 (火)

『サモトラケのニケ』について書いたブログが急伸!?

19日23時過ぎから、このブログのあるページのアクセスが急伸しました。

昨年9月に放送されたテレビ東京系『美の巨人たち』について書いたもので、
その回のテーマ作は『サモトラケのニケ』像です。
http://oldfashioned.cocolog-nifty.com/blog/2012/09/915-021b.html

Victoire_de_samothrace
本作はパリ、ルーヴル美術館所蔵の彫像です。
サモトラケとは、ギリシャ領にある島の名前、サモトラケ島です。
「ニケ」はギリシア神話に登場する女神の名。

つまり、サモトラケ島で発見された、女神ニケ像。
『ミロのヴィーナス』(ミロス島のヴィーナス像)と同様のネーミングです。

だいぶ前の番組について書いたブログのアクセスが突如急伸するということは、
何か関連事項がメディアで取り上げられたということだと思います。

『サモトラケのニケ』について…、特にニュースで取り上げられた形跡もないので、
テレビの番組の中ではないかと思うのですが、どうなのでしょうか?


Old Fashioned Club  月野景史

2013年2月 5日 (火)

【美術】「エル・グレコ 神秘か理性か 天才画家の見たものは」NHK『日曜美術館』/2/10(日)にも再放送

2月3日(日)に放送されたNHK・Eテレ『日曜美術館』は、
「エル・グレコ 神秘か理性か 天才画家の見たものは」でした。
今週日曜、2月10日20時からも再放送される予定です
http://www.nhk.or.jp/nichibi/weekly/2012/1111/index.html

実はこの番組、昨年11月11日分のアンコール放送なのです。
その時期には大阪市の国立国際美術館で「エル・グレコ展」が開催中で、
それに合わせての放送でした。

そして今、同展は上野の東京美術館に巡回、4月7日まで開催中です。
タイムリーなアンコール放送といえるでしょう。

本展についてはこちらで紹介しています。
「エル・グレコ展」東京都美術館/スペインで活躍したギリシャ人 異邦の画家の大型展
http://oldfashioned.cocolog-nifty.com/blog/2013/01/post-2a1f.html


エル・グレコ(El Greco、1541年 - 1614年4月7日)
現ギリシャ領のクレタ島、イラクリオン出身の画家。
グレコは故郷でイコン画家としてスタートした後、
ヴェネツィアやローマなどルネサンスを代表する都での修行を経てスペインに渡り、
トレドでギリシャ出身の異邦の画家「エル・グレコ」として後半生を送り、
宗教画を中心に素晴らしい画業を残しました。


El_greco_001
「エル・グレコ展」来日中の代表作
『無原罪のお宿り』 1607-1613年
サン・ニコラス教区聖堂(サンタ・クルス美術館寄託)
347×174cmの大きな祭壇画です。 

没後、一時は忘れかけられていた時期もあるのですが、
現在は後世のベラスケス、ゴヤとともに「スペイン三大画家」などと呼ばれています。

実は、上で述べたエル・グレコのトレドに至る足取りは、ほぼ間違いないのですが、
詳しい経歴は不明な点も多いのです。
今回の番組ではエル・グレコの軌跡を辿るとともに、技法にもせまっています。

その不自然なまでに引き伸ばされて描かれた手足の理由は?
その時代、マニエリスムならではの技法でもありますが、
番組では、高い位置に掲げられ、下から見上げて観賞する祭壇画ならでは、
その鑑賞者の視点で、最も美しく観えるように描いたとする解釈でした。


番組公式サイトの紹介記事
☆☆☆
ベラスケス、ゴヤとともに「スペイン三大画家」の一人に数えられるエル・グレコ(1541~1614)。この秋、プラド美術館、メトロポリタン美術館、ボストン美術館など世界中の美術館や教会から油彩およびテンペラ画の傑作50点以上が日本に集結し、国内史上最大の回顧展が開かれる。

エル・グレコ(本名ドメニコス・テオトコプーロス)が誕生したのはギリシャのクレタ島。イタリアで油彩画の技法を習得し、30代半ばでスペイン・トレドに移り大成。ギリシャ人を意味する「エル・グレコ」と呼ばれた。そのエル・グレコが最も才能を発揮したが宗教画である。赤・青・緑・黄という宝石のように輝く色彩の衣をまとったキリストや聖人たち。人物はどれもくねるように細長く引き延ばされ、潤んだ瞳で甘美な表情をたたえている。宗教的情熱と深い精神性をたたえた作品は宗教画に革命を起こし、没後もピカソをはじめとする画家たちに多大な影響を与えることになる。

実像については謎に包まれていたエル・グレコだが、近年蔵書の書き込みの解読などから、ベールに包まれた画家の姿が浮かびあがってきた。西洋美術史上最も偉大な宗教画家の一人、エル・グレコの創作の源を探る。
★★★

ゲストは作家の平野啓一郎氏。
この番組は時々、なんでこの人がゲストなの? という人が出ることもありますが、
平野氏はエル・グレコに詳しいし、また雄弁でした。

ところで、この『日曜美術館』ですが、最近は西洋絵画がテーマになることが少ないですね。
昨年5月以降で、西洋人の洋画家がテーマとなったのは、
このエル・グレコの他には、ジョルジュ・ルオーが一度あるだけです。

まもなく東京近辺でも、「エル・グレコ展」に続き、
西洋絵画の大型回顧展が続々とスタートしますが、フォローするのでしょうか?


関連My Blog
エル・グレコ 『無原罪の御宿り』7/21『美の巨人たち』/スペイン トレドの異邦人画家晩年の大作
http://oldfashioned.cocolog-nifty.com/blog/2012/07/721-9723.html


Old Fashioned Club  月野景史

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