【ドラマ】アガサ・クリスティ『アクロイド殺し』ドラマ化/ミステリ史上に残る特異なトリック ※原作ネタバレあり
★このブログページには原作小説のネタバレがあります。
アガサ・クリスティの傑作ミステリ『アクロイド殺し』(『アクロイド殺害事件』)を
原作とした翻案ドラマ『黒井戸殺し』が4月14日フジテレビ系で放送されます。
http://www.fujitv.co.jp/kuroido/index.html
先日も書きましたが、近年クリスティ原作のスペシャルドラマが毎年のように放送されています。
2015年1月にフジテレビが『オリエント急行殺人事件』、
2017年3月にテレビ朝日が『そして誰もいなくなった』を放送。
今年の3月にはテレ朝が『パディントン発4時50分』と『鏡は横にひび割れて~』を原作としたドラマを放送しました。
そして今度はフジが『アクロイド殺し』。
2015年の『オリエント』と同様に三谷幸喜さん脚本、
原作のエリキュール・ポアロにあたる探偵役を野村萬斎さんが演じるので、
『オリエント』の続編というか、同一シリーズものといっていいでしょう。
本項ではひのドラマの話題に合わせ、
世界のミステリー史に特異な足跡を残す原作小説についても書いていきます。
アガサ・クリスティ(1890年9月15日 - 1976年1月12日)。
イギリス出身。20世紀のミステリの女王。
その数多い著作の中でも代表作を3本挙げろと言われたら、
前述の『オリエント急行殺人事件』と『そして誰もいなくなった』、
そしてこの『アクロイド殺し』ということになるでしょう。
タイトルにある「アクロイド」とは殺人被害者の名前。
(ですので、今回の日本版ドラマでは黑井戸さんという人が殺されるのでしょう。)
しかし、本作は代表作であると同時に異色作、そして問題作ともいわれます。
何が異色であり、問題なのか。
原作小説について、ネタバレも含めて記します。
『アクロイド殺し』(『アクロイド殺害事件』)
原題 『The Murder of Roger Ackroyd 』1926年
物語の語り手が犯人
本作の主人公はクリスティが生んだミス・マーブルと並ぶ名探偵エリキュール・ポアロ。
そして登場人物の1人が一人称の語り手を務め、その主観により語られる一人称小説です。
つまり、シャーロック・ホームズシリーズがワトスン医師により語られる記録の体裁を持つのと同じスタイル。
本作で語り手役を務めるのはジェイムズ・シェパード。
ワトスンと同じく医師であり、ポアロの助手的役割を務めます。
ただし、彼は本作で初登場の人物で、これ以前の作品でポアロの助手だったことはありません。
それまでのポアロ登場作では、別の人物が語り手を務めていました。
そして物語のラスト、このシェパード医師こそがアクロイド殺害の犯人だったことが判明するのです。
一人称小説の語り手が犯人!
大胆にして異色、そして画期的なトリックです。
同時に、謎解き小説として読者に対してフェアと言えるのか?
アンフェアではないかとの論争を呼びました。
ですので評価が分かれる面もあるのですが、
クリスティの代表作のひとつ、そしてミステリ史上の傑作としての評価はほぼ固まっていると思います。
それにしても、このような奇抜なアイデアですから
クリスティもあらゆるトリックを散々やり尽くした末に出してきたのかと思いきや、
1920年のデビューから1973年に至る創作活動の間で
本作が1926年というごく初期に書かれたのも意外です。
彼女の先進性、大胆なチャレンジ精神を感じます。
映像化の難しい作品
本作は映画やドラマ化の難しい作品とされます。
日本で映像作品かされるのは初めてとのこと。
ホームズシリーズをはじめ、一人称ミステリの映像作品化は珍しくありませんが、
その場合、原作が一人称小説である意味は薄れ、
三人称小説を原作とした場合と同様の客観的な表現・描写になるのがほとんどだと思います。
その点では、『アクロイド』も映像化すること自体が極端に難しいとも思えません。
しかし、『アクロイド殺し』は一人称の語り手が犯人であることが最大のトリックであり、売りです。
その部分をぼやかして映像化してしまったら、何が作品の魅力になるのか?
ここをどう捉え、どのような切り口で映像として表現するかがポイントになると思います。
もちろん、真犯人が原作通りなのかは断言はできません。
大胆に変えてくる可能性もゼロではありませんが、
いずれにしろに三谷幸喜さんの腕の見せどころでしょう。
粒ぞろいで数多い主要キャスト
前述のように原作のポアロにあたる主役の名探偵・勝呂武尊(すぐろ・たける)を演じるのは
日本の伝統芸能・狂言の第一人者と言われている野村萬斎さん。
そしてシェパードにあたる医師・柴平祐は大泉洋さん。
宣伝物等を見る限り、この2人のバディドラマみたいです。
ところで、私は原作小説を少年時代に読みました。
真相に辿りつくことはできませんでしたが、
読み進むにつれ「なんかおかしい」と違和感を覚えていました。
推理小説ですから、犯人は誰かを推理しながら読むのですが、
犯人候補となる人物がラスト近くになってもさっぱり浮かび上がってこないのです。
そうしたら、語り手が犯人だったというオチでした。
今回の出演者一覧を見ると、
クリスティ物にありがちな超豪華キャストというよりも、
粒ぞろいの俳優を、とにかく数多く揃えている印象です。
原作小説にはこんなに多くの主要人物がいただろうかと疑問に感じたりしています。
そして大泉さんをはじめ、三谷さんが執筆した大河ドラマ『真田丸』の出演者も多い。
遠藤憲一さん、斉藤由貴さん、吉田羊さん、松岡茉優さん、藤井隆さん、今井朋彦さん。
他に寺脇康文さん、余貴美子さん、草刈民代さん、向井理さん、佐藤二朗さん、和田正人さんら。
この俳優達が脇役の登場人物をいかに演じ、どんな『アクロイド殺し』になるか。
私も少年時代から馴染んだ小説のドラマ化であり、楽しみです。
◆◆◆
ところで、このブログでも書いてるように、
不倫騒動で『警視庁・捜査一課長』と『西郷どん』への出演を辞退した斉藤由貴さんが、
このドラマには出演します。
といっても、実はこのドラマの撮影は不倫発覚前だったからで、ドラマ復帰したわけではないようです。
このドラマはもう1人、不祥事で謹慎中の小出恵介さんも本来出演していて、
その部分は撮り直したともいわれています。
難産の末にようやく放送となったということか。
出来はどうでしょうか?
Old Fashioned Club 月野景史
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