【相棒】神戸尊(及川光博)の奇跡 「ようこそ特命係へ」/ 2代目相棒 成功の理由
昨年は成宮寛貴さんの芸能界引退、高樹沙耶容疑者の逮捕など、『相棒』関係であまり良くないニュースがありましたが、
『相棒』17年の歴史で一番の大事件といえば、初代相棒・亀山薫役の寺脇康文さんの降板
→今回のテーマである2代目相棒・神戸尊の及川光博さんへの交代でしょう。
亀山薫 まさかの退場
『相棒』はテレビ朝日・東映制作。2000年に土曜ワイド劇場枠の2時間ドラマとしてスタート。
主役はいうまでもなく、杉下右京(水谷豊)と亀山薫の“警視庁ふたりだけの特命係”でした。
2002年10月から連続ドラマ化され、続く2003年のseason2から10月~翌年3月の2クール放送が定着。
視聴率も概ね右肩上がりで、同じ水曜21枠で放送されていた『はぐれ刑事純情派』『はみだし刑事情熱系』と
入れ替わる形で、木曜20時の『科捜研の女』と共に、国民的長寿警察ドラマとなっていきました。
シーズン6終了直後の2008年5月には映画第1作となる『相棒 -劇場版- 絶体絶命! 42.195km 東京ビッグシティマラソン』が
テレビ朝日開局50周年作品として公開され大ヒット。
寺脇さんの降板発表はその直後でした。
『相棒』は水谷豊さんと寺脇さんW主演のドラマだと誰もが思っていたので、この降板は意外でした。
特にこのタイミングはあり得ないでしょう。
映画もヒットし順風満帆、まさに国民的ドラマとして最盛期を迎えようとする時期です。
それに、寺脇さん側にどうしても降板せねばならない事情も見当たりません。
この降板については色々といわれていますが、それはまた項を改めて記します。
とりあえず大変なのは、亀山の退場後でした。
『相棒』ファンの多くは亀山ファンでしょう。
時にうざく感じる事はあっても、熱心な『相棒』ファンだが亀山は嫌いという人が多くいたとは思えません。
それが突然の降板。誰が後任になっても反発は必至。厳しい視線にさらされる事は間違いありません。
この困難な状況下で引き継ぎ、更に視聴率を伸ばしたのが2代相棒・神戸尊役の及川光博さんでした。
神戸在任中のシーズン9の平均視聴率は20.4%。現在までで最高、唯一の20%超え。
ちょっと大袈裟ですが、奇跡といっていいくらいです。
今回は及川さんへの交代当時を振り返り、なぜ神戸尊が成功したかを考えてみます。
2代目登場前後にインターバル
寺脇さんの卒業は2008年10月スタートのシーズン7のスタート前に発表され、
12月放送の第9話で亀山は妻の美和子(鈴木砂羽)と共に退場しました。
シーズン7は残り半分を残していましたが、その段階で後任は公表されていません。
年が明けて2009年1月の第10話からは特命係が右京1人の“片棒時代”となります。
そして最終回間近に2代目が及川さんと公表され、3月の最終第19話で遂に登場するのですが、
この回限りで番組は半年のオフに入り、本格的な2代目相棒時代はシーズン8までお預けとなりました。
変則的な引き継ぎでしたが、これが功を奏しました。
ともかく亀山の退場に反発があるのは間違いないのですから、
すぐに神戸を登場させて「新相棒による新時代」にしなかったこと、
また1度神戸を見せて、すぐにオフに入ることによって不満を醒ますと共に、
制作側も視聴者の反応を見極めることができました。
初代と正反対の新相棒
及川さんのイメージは寺脇さんとは全然違います。
そもそも俳優よりも歌手のイメージの方が強い。
寺脇さんの後任が及川さんとは、多くの人が意外に思ったでしょう。
当然ながら劇中での亀山と神戸のキャラも全然違う、正反対・真逆と言ってよい印象でした。
これも上手かったです。
2代目が同じようなキャラだと、どうしても細かい点まで初代と比較されてしまいます。
亀山と神戸では違い過ぎて比較しようがありません。
天才と秀才
しかし、神戸にとって本当に大事なのは、亀山ではなく右京との対比です。
右京と亀山こそキャラクターが正反対のコンビ、バディ関係でした。
対して、右京と神戸は一見同じようなエリートタイプ。
これでは右京・亀山のようなコンビの妙が出せない、それぞれの個性が生きない・・・と思われました。
しかし、ここもそうなりませんでした。
同じエリート系といっても、右京は天才型で、常人には及びもつかない発想をします。
対して、神戸は秀才で優等生タイプ。常識的な思考から入る人間。
この差異がうまくはまりました。
ミステリ作品における名コンピの元祖・王道といえばシャーロック・ホームズとジョン・ワトスンでしょう。
このコンビは天才・変人のホームズと常識派のワトスンとの組み合わせです。
亀山は“常識人代表”としては時にエキセントリック過ぎる面がありました。
実は右京&神戸の方がホームズ&ワトスンに近いバディ関係だったのです。
スパイ設定
神戸が特命係に配属された理由は警察庁のスパイとして、右京の身辺を探る為でした。
なんとも荒唐無稽な話を考えたものですが、これも良い効果を生みました。
ファンとしては、右京に簡単に神戸を新相棒として認めてほしくないという心理がある一方、
今更、初期のようにシニカルで新人を拒否するような右京を見たくないという気持ちもありました。
しかし、右京が神戸の事情をどこまで把握してたかは微妙なのですが、
相手がスパイなら、距離を置くような態度になるのもやむを得ないところです。
逆に、クールに見える神戸が厭われながらも右京にベタベタとついて回るのも、
スパイとしての職務であるならば当然です。
シーズン8を通して2人はこのややこしい、緊迫感のある関係を続けながら、少しずつ信頼を深めていき、
遂に最終話では右京から神戸に対し、「ようこそ、特命係へ」との感動的な言葉が飛び出しました。
じっくり時間をかけ、本格的なバディとして、第2代の相棒コンビの誕生となったのです。
最高の数字を記録したseason9
そうして迎えた次のシーンズ9はかつてない水準の視聴率で20%超えを連発し、
シーズン平均視聴率20.4%(それまでの最高は18.1%)、単回でも第16話「監察対象 杉下右京」が23.7%を記録。
これは共に、現在まで含めた歴代最高視聴率です。
最近の推移を見る限り、今後この数字を越えるのはまず無理でしょう。
このシーズン放送中の2010年12月には映画第2弾『相棒 -劇場版Ⅱ- 警視庁占拠! 特命係の一番長い夜』も公開され、
『相棒』人気はピークを迎えたのです。
神戸尊の魅力
神戸はエリートで秀才、何事もクールにそつなくこなすタイプ。
また二枚目で遊び人風な雰囲気もあります。女性にもてる事も間違いありません。
一方でやや頑ななくらい真面目な面もあり、
面倒臭いタイプの人間とも、ついつい深く関わって振り回されたり、世話を焼いたりもします。
この微妙なバランスも魅力です。
亀山の退場は、初期からのヒロインといえる奥寺(→亀山)美和子の退場でもありました。
そして神戸と同時に、美和子に当たる新レギュラーの加入はありませんでした。
その代わりというわけでもないでしょうが、元々セミレギュラーだった大河内監察官(神保悟志)を神戸と旧知だった設定にしました。
この関係も当たりました。
2人が馴染みのお洒落なバーでワインを飲みつつ、少し皮肉をきかしながら語らうシーンは『相棒』の新たな名物となりました。
色々なことがうまい具合に回りました。
残念だった偽証設定
このように順風満帆だった2代目相棒神戸の時代ですが、次のシーズン10初回でとんでもない展開がありました。
神戸が特命係に来るはるか前に裁判で偽証していた事が明らかになったのです。
神戸は被告の有罪を信じてやったのですが、実は無罪で、出所後被告は自殺してしまいます。
私は主人公にこのような過去を背負わせる設定を後付けで作るのは賛成できません。
これは失敗だったと思っています。
しかも更によくないのは、この回の最後で神戸は強い衝撃を受け、深く悔いていたのに、
次の回以降、この件への拘りがほとんど感じられなくなった事です。
これでは神戸の人間性に疑問を持たれてしまいます。
これは、多くの脚本家・監督によって作られている為の弊害ともいえるし、
通常の相棒コンビが事件解決するストーリーを作る上で、
神戸が毎回過去にぐずぐすと拘る様子を描いてもいられないという面もあるでしょう。
しかし、それならば偽証設定など作らなければよかったのです。
どうもこのあたりから、『相棒』の迷走が目立つようになりました。
この件については及川さん自身も、降板時に以下のように「翻弄された」と語っています。
「尊は、シーズン10の初回スペシャルで過去に“偽証罪”を犯したという“重荷”を背負わされてしまった。僕も翻弄されています」
http://www.oricon.co.jp/news/2008745/full/
シーズン10の視聴率は前期の20.4%から16.6%へと急落しました。
偽証設定の為だけではないかも知れませんが、まさか無関係とはいえないでしょう。
(その後の3代目相棒・甲斐享(成宮寛貴)時代の3期は17.3~17.4%とやや回復、安定しました。)
結局、神戸はこのシーズン10最終話(2012年3月)限りで警察庁への再異動の形で退場となりました。
3シーズン+1話の任期でした。
視聴者の期待を後味悪く裏切るのも、ひとつの『相棒』らしさといえなくもないのですが、
やはりこの奇跡的成功の後の偽証設定は残念でした。
その後の及川光博さん
『相棒』卒業から約5年、及川さんは歌手活動も続けつつ、俳優として様々なドラマに出演しています。
そして神戸尊としても、スピンオフ映画『相棒シリーズ X DAY』(2013年3月公開)と
『相棒 -劇場版Ⅲ- 巨大密室! 特命係 絶海の孤島へ』(2014年4月公開)の2本に、僅かなシーンながら登場しました。
降板後、『相棒』と接点を持っていない初代相棒亀山薫と違って、神戸尊は相棒世界に籍を残しています。
また、昨年は及川さんがMCを務める音楽番組に水谷豊さんがゲスト出演しました。
2017年 神戸尊再登場
そして、神戸は2017年2月11日公開の『相棒 -劇場版Ⅳ- 首都クライシス 人質は50万人! 特命係 最後の決断』に登場します。
それに先立ち、2月1日と8日に放送されるseason15の第13話・14話の前後編にも登場します。
神戸は降板後も劇場版には出てきましたが、テレビシリーズへの再登場は初めて。
過去を乗り越えての活躍が期待されます。
Old Fashioned Club 月野景史
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