【相棒13】甲斐享最終章「ダークナイト」がこれだけ非難される理由を検証する
※追記:2024年元日スペシャルに笛吹悦子(真飛聖)が再登場します
2015年3月18日に放送された『相棒season13』最終回2時間スペシャル第19話「ダークナイト」。
3代目相棒・甲斐享(カイト)を演じる成宮寛貴さんの卒業回でしたが、
カイトが犯罪を犯して逮捕されるという衝撃的な展開に、ネット上には非難の声が溢れています。
ドラマも長く続くと思い入れの強いコアなファンが増え、その声を気にするあまりストーリーが硬直化することがあります。
それは歓迎すべきことではないでしょう。
しかし今回ばかりは、批判されても仕方ないかと思います。
もちろん、擁護する意見もありますが、共感できるものは少ないように感じます。
この最終回のみをひとつの物語としてみれば、それなりにおもしろいと言えるかも知れません。
しかし、長く続くドラマの節目の1本としては、残念な内容と言わざる得ないかと思います。
3代目特命コンビ 今となっては悲しい2ショットです。
ネット上の意見は「賛否」でいえば、7~8割は否定的意見でしょう。
残りも賛辞は少なく、擁護、許容、せいぜい肯定、そして非難する人に対する批判といったところでしょうか。
視聴者に必要以上に媚びる必要もありません。
しかし、長く続く物語には当然ながら、ファンから深い愛着を持たれるキャラクター達がいる筈です。
作り手として、そのイメージは大事にすべきでしょう。それはまたファンを大事にすること。今回はそこが決定的に欠けていました。
では、具体的に何が問題なのか?
ネット上の声を踏まえつつ、アトランダムにですが、ポイントを上げながら検証していきます。
甲斐享(演:成宮寛貴)
亀山薫(寺脇康文)、神戸尊(及川光博)に続くシリーズ3代目の“相棒”として、
2012年10月より2015年3月まで、3シーズン6クール全57話+劇場版1本に登場。
登場期間は2年半ですが、劇中では3年間の特命係在任とされています。
2016年12月9日追記:成宮寛貴さんが芸能界引退を発表したそうです。残念なことになりました。
http://oldfashioned.cocolog-nifty.com/blog/2016/12/post-77d0.html
◆刑事ドラマで主人公が逮捕
単純に言い切れないかも知れませんが、『相棒』は基本的には勧善懲悪のドラマです。
その中で、若きヒーローとして頑張ってきた主人公が犯罪に手を染め、逮捕されて退場とは。
衝撃的なバッドエンドです。
しかし、バッドエンド、不条理、後味が悪い、救いようがない・・・、
これも相棒のテイストのひとつ(もちろん、いつもそうではありませんが)。
納得できる事情があれば、逮捕か、そこまでいかなくても不祥事による退職とか、
そんなラストも『相棒』なら有り得なくはない。こういう声は意外と多いです。
特に、成宮さんが悪役や屈折した役も、魅力的に演じられる俳優だからという面もあります。
しかし、今回は納得できる事情ではなかったということです。
◆右京が気づかぬ筈がない
カイトは特命在任中の約2年前から6件の暴行事件を犯していたことが、いきなり明らかになりました。
最初は、友人の妹を殺した通り魔がターゲット。殺さぬほどに痛めつけ、重傷を負わせました。
その後の2~6件目は主に暴力団員や、それに準ずる法で裁けぬ悪人達を同様に暴行しています。
この2件目以降の5件は、悪を制裁する“ダークナイト”としてネット上で称賛を受けていました。
これを聞いて、『相棒』ファンなら誰だって同じことを思うでしょう。
「右京が気がつかない筈ないだろ!」と。
これには二重の意味があります。
あの杉下右京(水谷豊)が身近にいて、犯行を繰り返すカイトの異変に気づかない筈がない、ということと、
そんな事件が起こって、右京が動かない筈がないという意味とです。
この点は問答無用です。それが『相棒』であり、「杉下右京」なのです。
まして、最初の事件は、カイトの友人に起こったことなのですから、その時点で食いついてなければおかしいです。
そういえば、カイト自身が以前こんな発言をしています。
「そんな不可解な事件が起こったのに、杉下さんが捜査に首を突っ込まなかったのが一番不思議だ」
これは、相棒世界の絶対的な共通認識なのです。
この時は、右京は英国にいたから事件に関わらなかった、その帰りに寄った香港で、カイトと出会ったというオチでした。
今となっては懐かしくも、悲しい思い出話となりました。
◆犯行の動機
カイトの最初の暴行事件の動機は、妹を殺された友人に代わっての敵討ちであり、
友人を殺人者にしないためでした。
劇中で大河内監察官(神保悟志)も言っていたように、ここまでは理解できるという声が多いです。
その後、主に暴力団員や、それに準ずる法で裁けぬ悪人達を殺さぬほどに、傷めつけていきます。
アンチヒーロー的な行為ですし、ここで多少なりとも共感できる理由が示せれば、だいぶ印象も違っていたでしょう。
しかしカイトは、なぜそんなことをしたのか自分でもわからないといいます。
ネットでヒーローと称賛され、舞い上がってしまったのかも知れないとも言いました。
それは・・・ちょっと悲しいですね。
杉下右京は人材の墓場
更にカイトの父親で警察庁次長の甲斐峯秋(石坂浩ニ)は、カイトの闇堕ちは右京のせいではと、
カイトは右京の犠牲者ではないかといいます。
ここでの、右京と峯秋の責任のなすり合いのようなシーンも、印象がよくありません。
それはともかく、峯秋の口から「杉下右京は人材の墓場」という言葉が出ました。
『相棒』ではお馴染みのフレーズですが、本来は、警官失格の烙印を押された人間を
偏屈な右京の元に送り込み、やめさせるというニュアンスの筈です。
元々、峯秋が右京の希望を聞き入れ、特命係行きを認めたのはこの意味だったようですが、
今回の流れだと、右京の相棒になると、有望な若者も犯罪者に堕ちてしまう、そんなに意味に思えてしまいます。
これはあくまで甲斐峯秋の見解ですが、今回だけを見れば、外れているとも言いきれません。これもまた衝撃的です。
『劇場版Ⅲ』のポスターをそのまま利用した、警察官募集のポスター。
「あなた、未来の“相棒”になっていただけますか?」とは、
今となっては、性質の悪いジョークのようです。
右京より峯秋が正しかった!
そして、カイトを見込んでスカウトした右京より、警察官に向いていない、早くやめさせようとしていた父親の方が
明らかに正しかったということにもなります。これも悲しいですね。
これについては、そもそもカイトの幼い頃からの親子関係に問題があるのだから、
右京のせいにするのはおかしいという声もあります。
しかし、少なくとも3年前の時点でのカイトに対する評価は峯秋が正しかった。ダークナイトという結果が実証してしまいました。
この最終回の展開だと、残念ながらそういうことになってしまうのです。
◆伏線なき展開
今回の件で、とにかくよくいわれているのが、あまりに唐突的な展開で「伏線がない」ということ。
まったくその通りだと思います。
そもそも、物語において「伏線を張る」とは、先に展開が決まっていて、
関連した事柄を前のほうでほのめかしておくことをいいます。
今回の場合は、この最終回のストーリーがいつ頃決まったかに関わってきますが、
これだけの衝撃的な展開なのだから、今期『season13』の初めくらいには決まっていて、
入念に伏線を張ってほしかったと思いますが、実際はどうだったのでしょう?
私の印象だと、物理的に事前の伏線など張りようがないくらい、
直前に決まったのではないかとさえ、感じますが。
◆伏線はあるといってくれる人もいる
ファンとはありがたいもので、伏線はちゃんと張られていると言ってくれる人もいます。
でも、今回の場合は無理なこじつけです。
例えば、カイトは自分を抑えきれず、容疑者に殴りかかるようなことがあった、つまり暴力的素養があったいうのです。
これは、番組でも最後に過去のそんなシーンを流してアピールしていました。
しかし、血気盛んな若い刑事が悪質な犯人に殴りかかるのは刑事ドラマの定番です。
『相棒』では初代の亀山薫(寺脇康文)がよくやってました。
2代目の神戸尊(及川光博)は、亀山と対照的な優等生タイプなので見られませんでしたが、
これをもってして、連続暴行事件を起こす伏線だといわれてはたまりません。
特に、カイトの初登場回で容疑者に頭突きをかますシーンが引き合いに出されますが、
この相手は容疑者である前に、カイトの知人で警察官ですから、事情が全然違います。
◆キャラクターのぶれ
伏線を張れなかったのなら、今まで形成されてきた登場人物のキャラクターに沿ってドラマ作りをせねばなりません。
別に今回に限らず、当たり前のことです。
とはいえ、連続ドラマで、まして『相棒』のように複数の脚本家や監督が関わってる場合、
回により、キャラクターに多少のブレが出るのは仕方ありません。
しかし、この最終回では、明らかに許容範囲を遥かに超えていました。
ダークナイトとしての犯行は、法で裁けぬ悪人を成敗する、いわば現代の必殺仕事人。
アンチヒーローとして、ドラマや映画の主人公になれるような面もあります。
(相棒世界には似合いませんが)
しかし、ダークナイトの暴行の手口は、まず急所を攻撃して相手の戦闘能力を奪い、
その後、死なない程度に徹底的に痛ぶるというものです。
いくら悪人相手とはいえ、カイトって、そんなことをする人間だったのでしょうか。
(そもそも、カイトがそんなに格闘術に長けていた印象もありません。この点も唐突です。)
◆最後の重罪
最終回ではダークナイトの模倣犯・種村が殺人事件を起こします。
種村はダークナイトマニア。自分がダークナイトで、過去の事件も全部の犯行と虚偽の自供をします。
カイトは自分が手引きして種村を脱獄させた上で、友人に種村を襲わせ、重傷を負わせました。
このカイトの行動の意味がわからないという声があります。
カイトに好意的に解釈すれば、種村に冤罪を背負わせないためとも取れます。
しかし、自分が演じた闇のヒーロー・ダークナイトに酔って、
種村による犯行は、不細工な模倣であることを示したかった方が強いように思えます
そして、カイトはこの一連の行為で、重大な罪を重ねてしまいました。
警察官の職権を利用して、殺人犯・種村の地検からの逃亡の手引き、
その種村に対する、友人を使っての暴行・傷害教唆。
そもそも、友人を殺人犯にしないために始めたことなのに、その友人を犯罪者にしてしまいました。
そしてそれは、自らのアリバイ作りのためでした。
なんとも姑息・卑劣な行為。
もちろん、この程度の悪党はドラマにはいくらでも出てきますが、
『相棒』シリーズ3代目の相棒として、3シーズン主人公を務めてきた甲斐享とはこんな人間だったのか?
これはさすがにひどい。あり得ないでしょう。
それにしても、カイトがこのような行為に至った事情が多少なりとも描けていれば、
まだ救いようがあったでしょうが、まったく・・・、描くことを放棄してしまったようにさえ感じます。
◆悦子の妊娠と病気の意味が不明
最終回の3つ前、第16話で、カイトの年上の恋人でCAの笛吹悦子(真飛聖)の妊娠と、急性骨髄性白血病の発症が発覚します。
これがカイトの退場の理由になるのか考えた人も当然多かったのです。治療の為に退職して渡米とか。
しかし、その後の2話に悦子は登場せず、最終話で彼女を病院に残したまま、カイトは逮捕されてしまいます。
私も勿論そうですが、悦子の妊娠と病気の意味が解らないという声は大変多いです。
たしかにあの最終回なら、必要ないでしょう。
入院中の悦子がテレビとネット三昧だったから、防犯カメラに映ったダークナイトの正体がカイトと判った面はありますが、
まさかその為でもないでしょうし。
そして、悦子の妊娠と病気とわかった後、カイトはダークナイトとして5件目の事件を起こしています。
この行動に対する疑問の声も多いです。
こうなると、カイト卒業の理由として設定したのだが、インパクトが弱いからと最終回の内容を変更し、
悦子の身体のことだけが無意味に残ってしまったのでは、などと邪推したくもなります。
悦子の立場は、自身が命に係わる重病を抱えた状態で、無事出産できたとしても、子どもの父親は服役中の犯罪者。
この絶望的な状況で終わり、悦子の今後は描かれるのでしょうか?
ネットでは、病気も治り、子どもも産まれ、出所したカイトと一緒のシーンを見たいという優しい声もありますが、
相手に重傷を負わせた6件の暴行傷害に加え、逃亡と暴行の教唆、現職の警察官の犯罪、何年の服役が必要でしょうか?
※カイトの刑期について
以下、2ちゃんねるへの投稿より引用。カイトの服役期間についての考察です。
☆☆☆
逃亡幇助罪は警察官や刑務官などが犯した場合は懲役10年
人質を取られて脅されたなどの情状酌量事由がない場合はほぼ10年の判決が出ると思って間違いない
傷害事件は5件で、どれも重傷だろうから示談が成立していたとしても最高15年が10年になるくらい
日本の刑法では加算ではなくて、1番重い刑罰の1.5倍の量刑だから、検察が求刑できるのは傷害の15年の1.5倍で22.5年まで
検察が懲役20年を求刑したとして、上手くいって15年くらいの判決が妥当かな?
社会に与えた影響が大きいのと、100%利己的な犯行だから満額食らう可能性もあると思う。
★★★
ネット上ではカイトの量刑について過小評価する傾向があるように思えます。この方の考察が妥当ではないでしょうか。
ただ、引用文では傷害事件を5件としていますが、ダークナイトと認定されてない最初の暴行を合わせれば6件です。
◆どういう気持ちで再放送を観ればいいのか?
この意見も多いですね。『相棒』ならではです。
『相棒』は全国的に日中再放送されていて、そこからファンになった人も多いです。
関東地区、つまりテレビ朝日では『相棒セレクション』として、平日毎日アトランダムに放送してきました。
一週間のうちに、3代の相棒を見ることも珍しくなかったです。
しかし、カイトが特命係在任中に罪を犯していたと知ってしまったら、どういう気持ちでカイト期の再放送見ればいいのか。
そんな批判を恐れたのかどうか、最終回放送の18日を最後に、『相棒セレクション』も休止状態です。
◆ラストシーン
最後の空港での右京との再会については肯定的な評価も多いですが、本来出てこれる筈はないところを、
最後まで父親の威光を利用して空港までやってきて・・・、良い印象は持てませんでした。
別に留置場でも、取り調べ室でもよかったと思いますが。
◆なぜ、冒頭からダークナイト=カイトを明らかに?
今回、冒頭でまずダークナイトの5件目の暴行が描かれ、覆面を取って正体がカイトであることが明らかになりました。
この演出についても、なぜ最初からバラすのかと、疑問の声があります。
これについては、なんらかのギミックがあって、実はダークナイトはカイトではないのでは、とミスリードを誘い、
結局そのまま、なんの捻りもなく、やっぱりカイトが犯人でした、という流れでした。
ミスリードを誘っておいて肩すかし。
邪推すれば、冒頭で視聴者をつかんで、チャンネル変えさせない為の仕掛けでしょうか。
まだ書き足りませんが、とりあえずこれくらいにしておきます。
やはり、亀山や神戸のように、これからも右京が誇って時々語ることの出来るような卒業であってほしかったと思います。
この最終話については、2ちゃんねるのような匿名の掲示板だけではなく、
公式プログのコメント欄にも、「もう『相棒』は見ない」という旨の投稿が多数多く寄せられています。
今回ばかりは、制作の責任ある立場の人に、この作品を作った意図を聞いてみたいと思いました。
また、キャストやスタッフの人達にも。
ただ、この難しい状況下で、俳優さん達はよく演じたと思います。
特にカイト役の成宮さん。こういう屈折した闇を抱えたような役が得意ではあるのでしょうが、熱演だったと思います。
どんな気持ちで演じたのか、想像もつき難いですが。
成宮さんにはこの経験が糧に・・・なるのか判りませんが、他の舞台での活躍を期待しています。
Old Fashioned Club 月野景史