【美術】ラファエロ超入門/日本初の本格展開催中、レオナルドとミケランジェロとの比較から探るルネサンス最大の画家
ルネサンス美術の巨匠、ラファエロ・サンツィオ。
東京上野の国立西洋美術館では3月2日から6月2日まで、
日本初の本格回顧展となる「ラファエロ | Raffaello 」展が開催中です。
ラファエロ展来日中の『大公の聖母』(1505-6年)
そして、今週土曜5月11日放送のテレビ東京系『美の巨人たち』、
翌5月12日(日)のNHK Eテレ『日曜美術館』と、二日連続でラファエロ特集です。
会期も残り一ヶ月を切ったこの時期、やや遅まきながらの「ラファエロウィークエンド」となりますね。
ラファエロについてはWikipediaの項目にも長大な記述がありますが、
英語版を直訳したものなのか、なんだかさっぱり解りませんね。
ごく簡潔な概要が知りたいのに…。
というわけで、こちらも遅まきながらですが、このブログならではのラファエロ超概略・入門編です。
ラファエロ・サンツィオ
(Raffaello Sanzio 1483年4月6日 - 1520年4月6日)
Wikipedia日本語版では「サンティ(Santi)」となっていますが、
英語版、イタリア語版、フランス語版とも「Sanzio」です。
『自画像』(1504-6年) ※来日中
ルネサンス三大芸術家
さて、ラファエロが紹介される時、
レオナルド・ダ・ヴィンチ、ミケランジェロと並び、
ルネサンスの三大巨匠と形容されることが多いですね。
ルネサンスについては、このブログで超入門を書いてますので、よろしければ参照を。
http://oldfashioned.cocolog-nifty.com/blog/2012/01/post-2628.html
おそらく、日本での知名度ではラファエロは他の二人に劣るでしょう。
ですので、この二人と比較するとラファエロの概観が浮かび上がり、解り易くなると思います。
まずは三人の生きた年代を比較してみましょう。
レオナルド・ダ・ヴィンチ (1452年4月15日-1519年5月2日 67歳没)
ミケランジェロ・ブオナローティ(1475年3月6日-1564年2月18日 88歳没)
ラファエロ・サンツィオ(1483年4月6日-1520年4月6日 37歳没)
一番年長はレオナルドで、ミケランジェロはその23歳下、ラファエロは更にその8歳下です。
レオナルドが少し離れて上で、ミケランジェロとラファエロは比較的近いですね。
しかし没年では、37歳で急病により早世したラファエロは
67歳と当時としてはまずまず長命だったレオナルドと、僅か1年違いで亡くなっています。
88歳と長寿だったミケランジェロが亡くなったのは、ラファエロ没の44年後です。
この三人はごく大雑把にいえば、同時代に同じ地域で活躍したといえます。
三人とも今でいうイタリアの生まれ。
ルネサンスの聖地フィレンツェで修行して名を挙げ、
教皇庁のあるローマに招かれ活躍しました。
実はレオナルドのキャリアは結構複雑で、他にも重要な地名があり、亡くなったのはフランスなのですが、
ミケランジェロとラファエロは、だいたいその二ヶ所が活躍の場でした。
明確な記録はありませんが、三人それぞれ接点もあったといわれています。
上で述べたように、ラファエロは早世の画家でした。
ルネサンスの時代、彼は短い一生をどのように生き、どう評価されたのでしょう?
ルネサンス最大の“画家”
私は、ラファエロはルネサンス最大の画家といっていいのではないかと思っています。
しかし、そこまで言い切っているのは、聞いた記憶はありません。
他の二人より上だと断定できるのか?
まず第一の根拠は、残っている“絵画作品”の量が断然多いのです…、
というよりは、他の二人が極端に少ないのですが。
そして、ラファエロは短い生涯にも関わらず、生前からローマ教皇庁の絶大なる信頼の下、
画家として圧倒的な高評価を受け、死後、その絵は長く西洋絵画の規範(canon=カノン)となりました。
では、他の二人はどうなのか?
『モナ・リザ』『最後の晩餐』など、絵画でも超有名作を残したレオナルド。
しかし、13歳頃に工房に弟子入りし、67歳で亡くなるまで制作を続けたにも関わらず、
レオナルド作と認定される絵画完成作品は、僅か10数点しか残っていません。
多くが紛失したとも考えられてもいるわけでもありません。
実際、遅筆で寡作の人だったのです。
一方、「万能の天才」と呼ばれ、画家、芸術家という枠だけで括れるの人ではなかったのですが。
彫刻『ダビデ像』で知られるミケランジェロは、
自ら、「自分は画家ではない、彫刻家だ。」と発言した記録が残っています。
絵画では、壮大な天井画や壁画が残っており、
それはまさに美術史上の大傑作、神のなせる業かと思いますが、
額縁に入れて飾り鑑賞するような、私達のイメージする西洋絵画はほとんど残ってないのです。
対してラファエロは、まさに“美”の画家。
短い人生で、壁画も大傑作がありますが、額装して鑑賞するような絵も多く残しました。
特に「聖母子像の画家」と呼ばれています。
今回来日している『大公の聖母』もそのうちのひとつですが、
聖母マリアと幼いイエス・キリストを描いた聖母子画の評価は圧倒的で、
欧州各国の大美術館の至宝となっています。
つまり、“最高の画家”となると異論もあるでしょうが、「最大」はラファエロでしょう。
高い評価の伴った絵画作品の数量がまったく違うのですから。
『小椅子の聖母』(1513-4年)
私の一番好きな絵です。美しさ、愛らしさの極致。
その経歴
おおまかなラファエロの立ち位置、評価が解ったところで、
改めてそのキャリアを、ごくごく簡単に追ってみます。
1483年、イタリアのウルビーノの宮廷画家の家に生まれたラファエロは、
父の死と前後して1494年頃、11歳くらいで絵の修行を始めたとされます。
1500年(17歳)で画家として一人前の“親方”として登録。
1504年頃(21歳)に芸術の都フィレンツェに移住、売れっ子となり次々傑作を送り出します。
『大公の聖母』もこの頃、1505-6年頃の作品とされます。
しかし、芸術の都であったフィレンツェは競争も激しく、
ラファエロの顧客は専ら商人など個人が中心で、教会の壁画などの大作は残していません。
といっても、まだ二十歳そこそこだったのだから、無理からぬところだったのかも知れませんが。
1508年、ローマ教皇ユリウス二世に招かれてローマに移ったラファエロは、
教皇庁内の壁画を描く大仕事を受注します。
そこで代表作となる『アテネの学堂(アテナイの学堂)』を初めとする傑作を作り上げ、
20代半ばで当代随一の画家となりました。
そして、1520年に亡くなるまでの10年あまり、数多い顧客からの注文に応じて旺盛に創作に励み、
その名声は高まり続けました。
『アテネの学堂』(1509-10年)
人物像
ラファエロは社交的で誰からも好かれる好人物だったといわれます。
大工房を経営し、多くの弟子を育てました。
教養も大変高く、早くから教皇庁の文書係、
後には文化庁長官のような役職にもつきました。
芸術家、学者、経営者、指導者、そして教皇庁高官、
いずれも超一流、非の打ちどころがありませんね。
一方で、結婚の記録はなく、女性に関しては奔放だったともされます。
死因は熱病とされてきましたが、性感染症との説もあるようです。
しかし、上に書いたような人物評価が定着しているのですから、
破滅型だったとは思えません。
無念
若くして画家として最高の栄誉を得て、死後は西洋画の規範となり、
その作品は現在、ヨーロッパ各国の大美術館の至宝となっています。
「世界中の美術館で」と書きたいところですが、なにせ欧州各国の宝物として保有され、
多くの作品が残っているにも関わらず、欧州以外にほとんど流出してこなかったのです。
アメリカにさえ、ごく僅かしかありません。もちろん、日本にはまったくないです。
それほどの実績を残してはいますが、その早過ぎる死はやはり残念でなりません。
晩年を迎え、その絵は更に進化と深化を続けているように思えるからです。
本人は死にあたり何を思ったのでしょう。
人の何倍、何十倍の密度で生きた人です。
充分と思ったか、いや、やはり無念だったのか。
遺作『キリストの変容』(1520年)
バロック絵画を百年先取りしたかのような、
ダイナミックで躍動感溢れる構図、劇的な明暗表現、強烈な色彩。
後年は大工房で50人のスタッフを率い、多くの作品を仕上げていたラファエロですが、
この絵は、ほぼ自分一人で描いたと考えられています。
もっと長生きしていたら、どのような域に至ったのでしょう。
想像するのは楽しくもありますが、またはかなく切ないです。
「ラファエロ | Raffaello」展
2013年3月2日(土)-6月2日(日)
午前9時30分~午後5時30分。金曜日は午後8時。入館は閉館の30分前まで。月曜休館
会場 国立西洋美術館
主催 国立西洋美術館、フィレンツェ文化財・美術館特別監督局、読売新聞社、日本テレビ放送網
後援 外務省、イタリア大使館
http://raffaello2013.com/
Old Fashioned Club 月野景史
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