【美術】ラファエロ『大公の聖母』 5/11『美の巨人たち』より/漆黒の背景に隠された真実を探る
既に先日、このブログでも予告編を書きましたが、
5月11日放送のテレビ東京系『KIRIN~美の巨人たち~』
テーマ作品「今週の一枚」は、ラファエロ・サンツィオ 『大公の聖母』(1505-6年)でした。
(番組では「サンツォ」と表記していました。)
http://www.tv-tokyo.co.jp/kyojin/backnumber/130511/index.html
東京上野の国立西洋美術館で6月2日まで開催中の
「ラファエロ | Raffaello 」展に来日中の名画が遅まきながら登場しました。
今回の放送はいつものようなサブストーリーはほとんどなく、
直球勝負でラファエロとその時代、作品達、そして『大公の聖母』を突き詰めました。
全部をここに書き写しても仕方ないので、このブログでは『大公の聖母』について記します。
『大公の聖母』(1505-6年)
「聖母子の画家」ラファエロの傑作。
漆黒の背景から浮かび上がる聖母マリアと幼子イエス・キリスト。
イエスの手は、母の胸と肩に置かれ、聖母もその温もりを感じているかのような優しい母の顔。
神聖なる聖母子の姿と、家庭的な情愛に満ちた母と子の姿、
ラファエロは見事にこの二つを両立させています。
人間再生の時代、ルネサンスの申し子ラファエロの真骨頂です。
しかし、この一枚は謎に満ちた絵でもあるのです。
この絵は描かれた時から300年近く美術史上から消えていました。
18世紀の末、トスカーナの大公フェルディナンド3世が発見しました。
大公は1799年のナポレオン侵攻によってトスカーナを離れますが、
この絵を肌身離さず持ち歩きました。
それが、『大公の聖母』という名前の由来です。
この、フェルディナンド3世が発見した時点で、背景は黒く塗られていたといいます。
ラファエロの多くの聖母子画で、背景が黒く塗られたものは他に残っていません。
これは、聖母子の神聖さを表現する為の表現と考えられてきました。
しかし、近年の調査で、黒く塗られたのはラファエロの死後、遥かに時を経て、
18世紀頃だと判明したのです。
X線調査により、元々背景には建物の柱、丘のようなもの、窓などが描かれていたのです。
いったいなぜ、描かれていた背景を塗りつぶしてしまったのでしょう。
ところが、調査によると、背景の色についてはベージュ系のものしか見つかりなかったそうです。
柱、丘、窓等描かれているのに、色はベージュだけ?
これは不自然ですね。
そこからの推測ですが、そもそもこの絵は未完成だったのではないか、考えられます。
実は、この『大公の聖母』にはデッサンが残されています。
しかし、聖母とイエスの構図は同じなのですが、背景はX線で判明したものと違うし、
デッサンからは円形の作品にしようとしていたこともうかがえます。
デッサン(左)とX線写真 ※番組公式サイトより
更にここからの推測ですが、
ラファエロはフィレンツェでこの絵の構想に迷い悩んでいるうちにローマ教皇庁に招かれ、
戻ってきたら完成するつもりでローマに向かったのではないかと。
そして、ラファエロはローマで偉大な名声を得ますが、急病で亡くなり、
『大公の聖母』は未完のまま残されたではないかと。
なかなか興味深い話になってきましたが、番組で解題したのはここまでです。
その後、この絵の背景をいつ誰がどういう理由で塗りつぶしたのか?
この点はについての推理ありませんでした。
それは我々視聴者に委ねられたのでしょうか。
◇◇◇
番組ではラファエロの故郷ウルビーノに残る彼の生家と、
子どもの頃、壁に直接描いた聖母子画が紹介されていました。
しかし、ラファエロは1483年生まれ、織田信長より50歳早い生まれです。
見たところ、遺跡ではなく、生家がごくフツーに残っている感じでした。
これも凄いです。
「ラファエロ | Raffaello」展
2013年3月2日(土)-6月2日(日)
午前9時30分~午後5時30分。金曜日は午後8時。入館は閉館の30分前まで。月曜休館
会場 国立西洋美術館
主催 国立西洋美術館、フィレンツェ文化財・美術館特別監督局、読売新聞社、日本テレビ放送網
後援 外務省、イタリア大使館
http://raffaello2013.com/
Old Fashioned Club 月野景史
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