2012年10月6日放送のテレビ東京系『KIRIN~美の巨人たち~』テーマ作品「今週の一枚」は
エドゥアール・マネ 『草上の昼食』(1862-63年)でした。
http://www.tv-tokyo.co.jp/kyojin/backnumber/121006/index.html
エドゥアール・マネ(Édouard Manet, 1832年1月23日 - 1883年4月30日)
「新時代の絵画の開拓者」「近代絵画の父」「印象派の父」など、
絵画史のキーマンのごとき呼び方をされる、19世紀フランスの大画家マネ。
今回のテーマ作は、そのマネの『草上の昼食』でした。
画家の最高傑作でありながら、パリ中から罵声と怒声を浴びせられた問題作。
多くの日本人が知る有名作ですが、たしかに不思議な構図です。
絵の舞台はセーヌ川の畔と伝えられています。
画面奥の川岸には水浴びをしている下着姿の女性が一人。
そして、手前の木立の中では、二人の若い男と一人の女がくつろいでいます。
しかし、若い男たちは最新の流行の衣服に身を包んでいるにも関わらず、
女性だけが白い肌を晒しています。なぜ女性だけ裸なのか?
マネは、生粋のパリジャンで、裕福なブルジョア家庭出身。
父の反対を押し切って画家になったマネは、権威あるサロンで認められてこそ、
画家としての成功があると考えていました。
その彼が31歳の時に満を持して世に問うたのが『草上の昼食』でした。
しかし、サロンではあえなく落選。
マネはこの絵を「落選者展」に作品を出品しましたが、激しい非難を受けました。
番組では、マネが友人の語った言葉をヒントに、
激しい非難や罵声を予め覚悟しながらこの作品を描いたのだと説明しています。
ただ、前述のようにサロンでの評価を第一に考えていた人なので、
最初からこの結果を予測していたのかは微妙です。
ティツィアーノ『田園の奏楽』(1511年頃)
マネがインスピレーションを得た、『草上の昼食』のいわば元ネタとされています。
ベネツィア・ルネサンスの古典的名作。
草原で、着衣の男性と裸の女性。
同じような構図ながらこの絵は何故古典的名画と認められているのに、
『草上の昼食』はスキャンダルとなったのか?
『田園の奏楽』に描かれた二人の女性は森の妖精=ニンフ。
つまりこれは神話の世界を描いた絵なのです。
しかし、マネの描いた裸婦は現代を生きる生身の女性でした。
大きな問題とされたのはそこです。
ですが、それをいうなら『田園の奏楽』に描かれた男性の衣服も、
神話時代のものではないでしょう。
マネは“現代の感覚”で神話画を描いだと思います。
当然、反発も予想はしていたけど、評価されると思っていた、
しかし、想像以上に非難されてしまった、というところでしょうか。
それでも、そう時を経ずに高い評価を受けるようなっていくのですが。
Old Fashioned Club 月野景史