【美術】ベラスケス『アラクネの寓話』7/7『美の巨人たち』/謎深き絵に隠された多過ぎる秘密
7月7日放送のテレビ東京系『美の巨人たち』のテーマ作品「今週の一枚」は
ディエゴ・ベラスケス『アラクネの寓話』でした。
http://www.tv-tokyo.co.jp/kyojin/backnumber/120707/index.html
ディエゴ・ロドリゲス・デ・シルバ・イ・ベラスケス
(Diego Rodríguez de Silva y Velázquez, 1599年6月6日-1660年8月6日)
バロック期のスペインの宮廷画家。
17世紀スペイン絵画、そしてバロックを代表する、いわずと知れた大画家です。
『アラクネの寓話』は1657年頃に描かれました。
功成り名遂げたベラスケス、晩年の作です。
しかし、今回の番組は難解でしたね。
以前番組で取り上げているとはいえ、テーマ作とは別の『ラス・メニーナス』から入り、
聞き慣れない神話の登場人物の名が並びました。
更にティツィアーノ、ルーベンス、そしてミケランジェロまで、
時代や国を超えて、大画家達の名やその作品が次々と出てきました。
よほど集中していないと、1回観ただけではそれらの画家が今回のテーマ作とどう関わったのか、
理解できないでしょう。
ネット上でもこの絵への言及は少なく、今回の解釈がどのくらい一般的なのかよくわかりませんが、
とにかく番組で述べられた要旨を、進行順は無視してなるべく解り易く並べてみます。
『織り女たち』から『アラクネの寓話』へ
この絵には元々名前が付いていませんでした。
タペストリー工房で働く女性達を描いた風俗画と解釈され、長く『織り女たち』と呼ばれてきました。
1948年、ギリシア神話のアラクネのエピソードを描いたとの新解釈が提出され、
『アラクネの寓話』と呼ばれるようになったのです。
アラクネとは
ギリシア神話に登場する機織り名人の人間の女性です。
戦争と芸術と工芸を司る女神で、機織りの神でもあるパラスに機織り競争を挑み、
勝利するのですが、パラスの怒りを買って蜘蛛にされてしまいます。
絵の中の、右の白い衣服の女性がアラクネ、
左の頭部に白布を巻いた女性が老女に姿を変えたパラスだとされています。
戦争と芸術と工芸を司る女神は一般に「アテネ(アテーナー)」と呼ばれ、「パラス」はその別名です。
(ローマ神話での名でもありません。ローマ神話では「ミネルヴァ」にあたります。)
アラクネとのエピソードでも、普通は「アテネ」と呼ばれると思いますが、
今回の番組で、なぜほとんど知られていない「パラス」を使ったのか、よくわかりません。
アテネが怒ったのは、単に負けたからだけではないのですが、
更にややこしくなるので今回はふれません。
ティツィアーノとルーベンス
絵の中の奥の方に描き込まれたタペストリーの元絵は、
ベネツィア・ルネサンスの巨匠ティツィアーノの『エウロペの略奪』です。
そしてこの絵はバロックの巨匠であるルーベンスの模写もよく知られています。
若き日のベラスケスはフランドルの外交官でもあったルーベンスの薫陶を受けています。
偉大な二人の先達のオマージュを絵に籠めたのです。
ミケランジェロ
更に、ベラスケスはローマ滞在で目にしたシスティーナ礼拝堂の、
ミケランジェロによる天井画の一部の構図をこの絵に託しました。
アラクネとパラスの位置関係と姿勢がそうなのです。
ベラスケスの思い
宮廷画家として主に王家一族の肖像画を描いてきたベラスケスは、
晩年も近い時期の作『ラス・メニーナス』に自分の姿を描き込みました。
これはいわば、宮廷画家としての自画像です。
その後に描かれた『アラクネの寓話』は、例え神の怒りを買っても創作に挑む、
芸術家としての自分をアラクネに託した、ベラスケスもうひとつの自画像です。
そこに、偉大なる先達である三人の芸術家へのオマージュも籠めたのです。
以上、かなり割愛していますが、番組で述べられた概要は、だいたいこんなところだと思います。
しかし、随分盛り込みましたね。
Old Fashioned Club 月野景史
« 【昭和プロレス】Gスピリッツvol.24「力道山vs木村政彦」/遠藤光男氏の国際プロレス回顧論も | トップページ | 【風物詩】浅草寺「四万六千日/ほおずき市」/絶好の晴天にほおづきの朱も映える »
「03.美の巨人たち (TV東京系)」カテゴリの記事
- 【美の巨人たち】小林薫が降板し『新美の巨人たち』としてリニューアル(2019.04.13)
- 【美の巨人たち】 2/16放送 アンリ・ルソー作『戦争』 /あまり「下手」と言わないで(2019.02.17)
- 【美の巨人たち】アングル『グランド・オダリスク』とドラクロワ『民衆を導く自由の女神』(2017.03.19)
- 【美の巨人たち】3/5は「ナイトホークス」 エドワード・ホッパー/20世紀米国を代表する傑作絵画(2016.03.03)
- 【美の巨人たち】ミレー『羊飼いの少女』1/23放送/ミレーを国民的画家に押し上げた作品(2016.01.23)
« 【昭和プロレス】Gスピリッツvol.24「力道山vs木村政彦」/遠藤光男氏の国際プロレス回顧論も | トップページ | 【風物詩】浅草寺「四万六千日/ほおずき市」/絶好の晴天にほおづきの朱も映える »
コメント