【美術】エル・グレコ 『無原罪の御宿り』7/21『美の巨人たち』/スペイン トレドの異邦人画家晩年の大作
今日7月21日放送のテレビ東京系『美の巨人たち』のテーマ作品「今週の一枚」は
エル・グレコ 『無原罪の御宿り』(1613年頃) でした。
http://www.tv-tokyo.co.jp/kyojin/backnumber/120721/index.html
*この作品は2012年12月24日まで大阪の国立国際美術館に展示。
引き続き、2013年1月19日より東京都美術館にて展示されます。
↓東京展の鑑賞記はこちら
http://oldfashioned.cocolog-nifty.com/blog/2013/01/post-2a1f.html
「無原罪の御宿り」とは
前回のブログでも書いたので、先にこの画題について記します。
「無原罪の御宿り」について、番組ではこう説明しています。
『「聖母マリア自身が、情欲の交わりという汚れを知ることなく生まれた」という言い伝えを描いたもの』
これだけではちょっと解り難いですね。
聖母マリアはイエス・キリストを処女懐胎したという話はよく聞くと思います。
そのマリア自身も、性的な交わりなくして母アンナに宿った、という考え方が「無原罪の御宿り」なのです。
聖書の正典の中にはそのような記述はなく、いわゆる外典等に記される説です。
聖母が母の胎内に宿った時のことなら、描かれている女性は母アンナなのかといえば、
そうではなく聖母自身です。
ここがややこしいのですが、つまり聖母の神性がテーマなので、
聖母が神々しい姿で描かれるのです。
聖母が天に召される姿を描いた「聖母被昇天」という画題もあるのですが、
それとよく似た構図になる傾向があります。
そして、今回の番組の結論も
エル・グレコ 『無原罪の御宿り』は、「聖母被昇天」も合わさっているというものでした。
結論を先に書いてしまいましたが。
では番組に沿って、グレコの生涯から。
エル・グレコ(El Greco、1541年 - 1614年4月7日)
現ギリシャ領のクレタ島、イラクリオン出身の画家。
若い頃はイコンの画家でしたが、20代でヴェネチアへ渡り、巨匠ティツィアーノの弟子になったといわれます。
ここでヴェネチア派絵画の特徴である鮮やかで輝くような色彩を身につけました。
その後、理由は定かではありませんが、スペインへ渡ります。
王宮画家を目指しますが、描いた絵が王の不興を買い挫折。
落胆を抱えて辿り着いたのが、スペイン教会組織の本拠地であり、
宗教画を描くための芸術家が庇護された土地トレドでした。
このトレドで、「エル・グレコ」の異邦人画家としての人生が始まりました。
この町で、画家は数多くの傑作を生み出していきました。
しかし、1600年頃を境にグレコの人生は暗転します。
自然を忠実に写し取るバロック絵画の時代が近づき、時代遅れとなったグレコへの注文は途絶えました。
しかし、画家が72歳の時に礼拝堂に飾る祭壇画を描いて欲しいという思わぬ依頼が寄せられました。
それを受け、画家が描きあげたのが今日の一枚『無原罪の御宿り』です。
しかし、よく見ると実に奇妙なのです。
人物は長く引き延ばされ、およそ10頭身はあるでしょうか。体は不自然によじれています。
まるで人体の構造を無視するかのようにな不自然な絵ともいえます。
これは実際の人間の身体をそのまま描くのではなく、人体として不自然になっても、
理想的な美しさを追及する、そこに芸術としての可能性があるという考え方ですね。
まさにこの時代、マニエリスムそのものなのですが、
今回の番組では「マニエリスム」の言葉は使わず、エル・グレコの独創のように描かれてましたね。
番組では画家の生涯の概略と合わせて、
彼が後半生を過ごしたトレドの街を紹介する紀行番組的なサブストーリーが組まれていました。
そこに出てきた男の子がかわいかったですね。
ところで、番組ではエル・グレコがローマのシスティーナ礼拝堂のミケランジェロの天井画に
腰布の加筆を依頼され、「あんなものは芸術ではない」と拒否するエピソードが紹介されましたね。
真偽は不明かと思いますが、この言い伝えは存在します。
「腰布の加筆などではなく、自分に描き直させろ」という主張だったようで、
自信家であることをうかがわせるエピソードです。
ただ、今回の番組だと腰布の加筆は天井画完成直後にミケランジェロに依頼したが拒否され、
すぐにエル・グレコに話が来たような印象を受けますが、それは違います。
天井画の完成は1541年、エル・グレコの生まれた年です。
グレコがローマにいたのはそれから約35年後の1570年代後半、ギリシャに渡る直前とされます。
ミケランジェロはとっくに亡くなった後です。
Old Fashioned Club 月野景史
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