【美術展】「ベルリン国立美術館展 学べるヨーロッパ美術の400年」国立西洋美術館/西洋古典美術の神髄を辿る
東京上野の国立西洋美術館で9月17日まで、
「ベルリン国立美術館展 学べるヨーロッパ美術の400年」が開催中です。
ベルリン国立美術館展 学べるヨーロッパ美術の400年
2012年6月13日(水)-9月17日(月)
国立西洋美術館(上野)
主催:国立西洋美術館、TBS、読売新聞社
後援:ドイツ連邦共和国大使館、BS-TBS、TBSラジオ、J-WAVE
http://www.nmwa.go.jp/jp/exhibitions/2012berlin.html
TBSと読売新聞、系列の違う大マスコミが組んでの主催です。
このブログでも過去に二度ほど紹介しましたが、
http://oldfashioned.cocolog-nifty.com/blog/2012/01/2012-672b.html
http://oldfashioned.cocolog-nifty.com/blog/2012/05/400613-195a.html
今年開催が予定されている中でも、屈指の大型展のひとつがようやく開幕しました。
実は六本木の国立新美術館では7月16日まで、
「大エルミタージュ美術館展 世紀の顔・西欧絵画の400年」が開催中です。
よく似た展覧会名ですね。
共に「欧州芸術の400年」ですが、
六本木は16世紀から20世紀初頭までなのに対し、
今回始まった上野は15世紀から18世紀までと、古い時代が中心です。
更に六本木はほぼ油彩画で占められているのに対し、
上野は油彩画、彫刻、素描など幅広く、合わせて107点が展示されています。
展覧会の構成は以下の通りです。
第1章 15世紀 宗教と日常生活
第2章 15~16世紀 魅惑の肖像画
第3章 16世紀 マニエリスムの身体
第4章 17世紀 市民と戦士
第5章 18世紀 啓蒙の近代へ
第6章 魅惑のイタリア・ルネサンス素描
15世紀から18世紀まで、一通り時代を追った後、
少し遡ってルネサンスの素描を紹介するよう流れです。
最後の方は更に少し変則的になっていました。
これだけ長い時間、広いジャンルを扱っていますので、
作品に共通するテーマは見出し難いですね。
油彩画作品の中から、いくつか魅力的な作品を紹介していきましょう。
『真珠の首飾りの少女』 ヨハネス・フェルメール(1662-65年)
人気の高いフェルメール。いわずと知れた本展の看板作品です。
この後、同じ上野の東京都美術館で6月30日に開幕する、
「マウリッツハイス美術館展 オランダ・フランドル絵画の至宝」には、
やはりフェルメールの、よく似た題名の『真珠の耳飾りの少女』が来日します。
どちらかといえば『耳飾り』の方が有名ですが、本展の『首飾り」も初来日で貴重な機会です。
この絵を観て、どんなシーンだと想像しますか?
私は少女が母親のネックレスを持ち出して、身につけてみて、
鏡に映して見ているところだと思うのが、一番ぴったりするように思います。
なんとも魅力的な構図です。
そういうシーンだとすると、少し画面が、少女の顔も暗いのが残念に感じますが。
劣化のせいなのか、それとも元々こうような明るさで表現された絵なのか。
『果物、花、ワイングラスのある静物』ヤン・ダフィドゾーン・へーム(1651年)
大画面に描かれた美しい静物画。
国立西洋美術館の外壁にも大きく描かれている、本展の看板作品…の筈なのですが、
なぜか公式サイトの日本語ページにはまったく言及が見当たりません。
静物とはいっても、実際に並べられた花や器を写生したというよりは、
装飾的にデザインされている印象が強いですね。
フルーツの瑞々しさ、ワイングラスの繊細さ、美しい絵画です。
『バテシバ』セバスティアーノ・リッチ(1725年頃)
会場でも一際目を引く大作です。この絵も公式サイトでは推されていませんが。
バテシバ(バデシェバ、バト・シェバとも)はヴィーナス、
ディアナ、ダナエらと並び、裸身で描かれることが多い女性です。
しかし今、名を挙げた3人がギリシャ・ローマ神話に登場するのに対し、
バテシバは旧約聖書の登場人物です。
水浴姿をイスラエルのダビデ王に見初められ、王の陰謀により夫が戦死してしまう、
エピソードからいえば「悲劇のヒロイン」なのですが、この絵にはその憂いはないですね。
もちろん、ストーリーからいっても水浴時に憂いがある必要はないのですが。
『ルクレティア』ルーカス・クラーナハ(父)(1533年頃)
ルネサンス期ドイツの有名な画家クラナハの作品。
同じような構図でヴィーナスの絵などが知られますが、
「ルクレティア」は紀元前ローマ史に登場する貞節の、そして悲劇の女性です。
貞節を犯された彼女は父と夫にそれを告白し、復讐を託して短剣で自害してしまうのです。
しかし、短剣を手にしていても、予備知識なしにこの絵を観ると、悲劇性は感じ取り難く、
貞節というよりは・むしろ蠱惑的な魅力を感じてしまうかも知れません。
物語を知っていると、その表情から貞節への意志の強さなどを読み取れるのですが。
以上、絵画4点、敢えて華やかな絵を取り上げましたが、
彫刻や素描も多いので、全体としては色彩面ではやや地味めな展覧会ではあります。
尚、本展(東京展)閉幕後は10月9日より福岡で開催予定です。
2012年10月9日(火)-12月2日(日).
九州国立博物館 3階 特別展示室(福岡県太宰府市石坂4-7-2)
公式サイトに掲載されている主な展示作品のタイトルを章ごとに紹介します。
第1章 15世紀 宗教と日常生活
1480年頃 エルコレ・デ・ロベルティ《洗礼者聖ヨハネ》
1500年頃 リーメンシュナイダー《龍を退治する馬上の聖ゲオルギウス》
1500年頃 バルトロメオ・ピントリッキオ《聖母子と聖ヒエロニムス》
15世紀半ば ドナテッロ《聖母子とふたりのケルビム》
15世紀半ば ルーカ・デッラ・ロッビア《聖母子》
第2章 15~16世紀 魅惑の肖像画
1526年頃 アルブレヒト・デューラー《ヤーコプ・ムッフェルの肖像》
1540年頃 ルーカス・クラーナハ(父)《マルティン・ルターの肖像》
第3章 16世紀 マニエリスムの身体
1533年頃 ルーカス・クラーナハ(父)《ルクレティア》
第4章 17世紀 市民と戦士
1616-20年 ディエゴ・ベラスケス《三人の音楽家》
1640年頃 レンブラント派《黄金の兜の男》
1662-65年 ヨハネス・フェルメール《真珠の首飾りの少女》
1660-70年 ヤーコプ・ファン・ロイスダール《滝》
第5章 18世紀 啓蒙の近代へ
1777年頃 ジャン=アントワーヌ・ウドン《魚の静物》
1777年頃 ジェン=バティスト・シャルダン《死んだキジの静物》
19世紀初頭 ジョゼフ・シナール《レカミエ夫人の肖像》
第6章 魅惑のイタリア・ルネサンス素描
1480-95年頃 サンドロ・ボッティチェリ《ダンテ『神曲』写本》より「煉獄篇第17歌」
1480-95年頃 サンドロ・ボッティチェリ《ダンテ『神曲』写本》より「煉獄篇第31歌」
1490-95年頃 ルーカ・シニョレッリ《若い女性と若い男性を担ぐふたりの裸体の若者》
1505年頃 ミケランジェロ・ブオナローティ《聖家族》
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国立西洋美術館で開催中の
「ベルリン国立美術館展 学べるヨーロッパ美術の400年」に行って来ました。
ベルリン展公式サイト:http://www.berlin2012.jp/
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