【美術展】「大エルミタージュ美術館展 世紀の顔・西欧絵画の400年」 国立新美術館/西洋絵画史400年を俯瞰、特に18世紀美術が秀逸
東京六本木の国立新美術館の開館5周年記念企画展として7月16日まで、
「大エルミタージュ美術館展 世紀の顔・西欧絵画の400年」 展が開催中です。
国立新美術館開館5周年 大エルミタージュ美術館展 世紀の顔・西欧絵画の400年
2012年4月25日(水)-7月16日(月)
会場:国立新美術館、
主催:国立新美術館 日本テレビ放送網 読売新聞社 エルミタージュ美術館
http://www.ntv.co.jp/hermitage2012/
本年予定されている中でも屈指の展覧会が開幕しました。
ロシア国立のエルミタージュ美術館から傑作・秀作89点が来日、
16世紀ルネサンスの時代から、バロック、ロココ、近代、現代に至る、
西洋絵画400年の歴史を俯瞰する展覧会です。
東京展の後は以下のように名古屋・京都と巡回、年内一杯開催予定。
名古屋展
2012年7月28日(土)-9月30日(日) 名古屋市美術館
京都展
2012年10月10日(水)-12月6日(木) 京都市美術館
しかし、特に東西冷戦の時代に育った人などは、
ロシア=旧ソ連の美術館に西欧絵画の傑作・名作がそんなにあるのか、
奇異に感じる方もいるかも知れません。
まずはエルミタージュ美術館を紹介します。
ロシア国立エルミタージュ美術館
ロシアのサンクトペテルブルクにある、世界三大美術館の1つエルミタージュ美術館。
その建物は元々、かの女帝エカテリーナ二世の「隠れ家(エルミタージュ)」と称された、
威容溢れる宮殿でした。
そしてそのコレクションは、18世紀初め、ピョートル一世が収集を始め、
エカテリーナ二世が世界から拡充した、ロマノフ王朝の至宝の数々です。
それらを公開する為1852年に創設された、300万点を所蔵する世界屈指の美術館です。
膨大な所蔵品から絵画で一例を挙げれば、彩色済み完成品は十数点しか残っていない
レオナルド・ダ・ヴィンチの絵画2点(そのうち1点は真贋論争がありますが)、
バロックのカラヴァッジョやルーベンス、その後のロココ絵画の傑作、
モネ、ルノワールら印象派、ゴーギャン、セザンヌらポスト印象派、マティスら近代絵画の傑作、
そして特にレンブラントは奇跡の裸体画『ダナエ』など23点を所有するなど、
西洋絵画垂涎の芸術品に溢れた美術館なのです。
エルミタージュ美術館公式サイト(英語版)
http://www.hermitagemuseum.org/html_En/
大エルミタージュ美術館展 世紀の顔・西欧絵画の400年
本展は16世紀から20世紀までの5世紀に渡る作品全89点を、
以下のように、一世紀分ずつに区切った全5章に分けて展示しています。
第1章 16世紀 ルネサンス:人間の世紀 16点
第2章 17世紀 バロック:黄金の世紀 22点
第3章 18世紀 ロココと新古典派:革命の世紀 20点
第4章 19世紀 ロマン派からポスト印象派まで:進化する世紀 19点
第5章 20世紀 マティスとその周辺:アヴァンギャルドの世紀 12点
まさに西洋美術史の軌跡を辿る展示内容です。
ただ、それなら400年ではなく500年でよさそうなものですが、
一番古い作品が1510年頃の絵なのに対し、
最も新しいのは1936年頃の制作なので、さすがに「500年」とはし難かったのでしょう。
私見では、特に18世紀ロココ時代の作品に見応えがありました。
そのあたりを含めて、各章をもう少し詳しく記していきます。
第1章 16世紀 ルネサンス:人間の世紀 16点
15世紀にイタリアのフィレンツェで花開いたルネサンス芸術。
やがてイタリア全土、そしてヨーロッパ各地へと拡がりますが、
なかでも16世紀を迎える頃のヴェネツィアは、経済的・政治的繁栄を背景に、
ひときわ豪奢な都市文化を育み、ルネサンス第二の都と呼ばれました。
第1章ではヴェネツィア派の旗頭ティツィアーノ初め、同地の豊かな絵画世界を中心に、
ミラノやクレモナなど北イタリアの諸都市で活動した画家たちの作品も紹介します。
フィレンツェやローマを出身とする絵がないのは少し寂しいのですが、
そこまで贅沢言っても仕方ありませんね。
主要作
バルトロメオ・スケドーニ 『風景の中のクピド』
ティツィアーノ・ヴェチェリオ 『祝福するキリスト』
第2章 17世紀 バロック:黄金の世紀 22点
16世紀末のイタリア、カラヴァッジョを祖とするバロック芸術ですが、
その後欧州各地に伝播、各国にこの時代を代表する著名な画家が登場しました。
そのなかでもオランダとフランドルにおいて繁栄します。
第2章では、17世紀フランドル美術を代表する画家ルーベンス、ヴァン・ダイクのほか、
オランダ美術の巨匠レンブラントやライスダールらによる22点が紹介されてます。
本展の中でもこの時代の作品は、質・量とも充実しています。
主要作
ペーテル・パウル・ルーベンス 『虹のある風景』
レンブラント・ファン・レイン 『老婦人の肖像』
アンソニー・ヴァン・ダイク 『自画像』
第3章 18世紀 ロココと新古典派:革命の世紀 20点
18世紀のヨーロッパでは、フランスを中心として「ロココ」とよばれる美術様式が流行しました。
繊細で甘く優美、豊かな装飾性を持った美しい絵画が多く描かれました。
一方、イギリス産業革命やアメリカ独立戦争、そしてフランス革命と、
西欧社会も劇的に変わりつつありました。
ロココ美術は、王侯貴族の雅な生活を彩る最後の輝きであったともいえます。
第3章では、ロココを代表する画家ブーシェの寓意画、
市民の素朴な生活を描いたシャルダンらの風俗画、レノルズを中心とするイギリス絵画のほか、
古代ローマの廃墟画やイタリアの風景画など、18世紀美術のさまざまな側面を描いた作品、
加えてナポレオンの時代に主流となった新古典派の作品など20点が展示されています。
この時代の芸術は先行するルネサンスやバロック、後に続く19世紀アートに比べ、
顧みられることが少ない傾向にあります。
しかし、技術的にも洗練され、美しく、楽しめる作品が多いのです。
特に本展では必ずしも華美なだけではない、様々のタイプの作品が集められており、
もっとも見応えのあるエリアになっていると、私は思いました。
公式ページで紹介されている以外にも、感嘆する作品がいくつもありました。
主要作
ジョシュア・レノルズ 『ウェヌスの帯を解くクピド』
ピエール=ナルシス・ゲラン 『モルフェウスとイリス』
この他にも現在、上野の国立西洋美術館で冠展が開催中のユベール・ロベールの遺跡画の大作、
18世紀を代表する女性画家ヴィジェ・ルブランの可憐な自画像など、見所が多いエリアです。
第4章 19世紀 ロマン派からポスト印象派まで:進化する世紀 19点
イタリアに代わって芸術の都となったフランスのパリ。
19世紀はこの地を中心に、多くの画家たちが新たな表現を模索し、
さまざまな絵画様式がめまぐるしく展開されました。
「バロック」「ロココ」と、その時代をひとつのジャンルとして括ることは最早難しくなったのです。
躍動的な構図と独自の色彩によって、感情をドラマティックに表現したロマン派、
現実をありのままに描く写実主義や、野外で自然を観察しながら描いたバルビゾン派、
やがて一瞬の光景を表現すべく、独自の技法を生み出した印象派が誕生します。
更にナビ派、新印象派、ポスト印象派まで19点が展示されています。
このエリアについては、これだけ多くのジャンルを僅か19点で紹介しているので、
ややまとまりを欠くような印象がなきにしもあらずです。
それだけ多様な時代になったということがわかりますが。
主要作
クロード・モネ『霧のウォータールー橋』
ピエール=オーギュスト・ルノワール『黒い服を着た婦人』
第5章 20世紀 マティスとその周辺:アヴァンギャルドの世紀 12点
1905年にパリで開催されたサロン・ドートンヌ展の一室に展示された作品達は、
原色を基調とした大胆な色彩使いからから「フォーヴ(野獣)」と評され、
多くの画家に決定的な衝撃を与えました。
第5章ではそのフォーヴィズムの旗手マティスの傑作を初め、
第二次世界大戦前までに描かれた絵画12点が展示されています。
主要作
アンリ・マティス『赤い部屋(赤のハーモニー)』
パブロ・ピカソ『マンドリンを弾く女』
☆☆☆
以上紹介してきましたように、多少点数にバラつきはあるとはいえ、
5世紀に渡る西洋絵画の歴史を一気に辿る、なかなか稀少な展覧会です。
実は今年は上野の国立西洋美術館で6月から似た主旨の展覧会が開催されます。
ベルリン国立美術館展 学べるヨーロッパ美術の400年
2012年6月13日(水)-9月17日(月) 国立西洋美術館
http://www.berlin2012.jp/
ただし、こちらの400年は15世紀から18世紀ということで、
エルミタージュ展より100年古い時代から。逆に19-20世紀美術は含まれないようです。
合わせて観賞、比較するのもおもしろいでしょう。
本展の宣伝・販促についての雑感
私は本展開幕後、初の休日である4月28日土曜日昼過ぎに観賞しましたが、
それほどの客入りではなく、ゆっくり観ることができました。
それは良かったのですが、集客という意味では少し寂しくも感じました。
本展の弱点を強いて挙げれば、一枚看板となる著名な作品がないことです。
上で紹介したベルリン国立美術館展と、
もうひとつ、上野の東京都美術館で6月30日(土)-9月17日(月) に開催される
「マウリッツハイス美術館展 オランダ・フランドル絵画の至宝」は、
(http://www.asahi.com/mauritshuis2012/)
共に人気のヨハネス・フェルメールが看板作品となっています。
本エルミタージュ展では早いうちからマティスの『赤い部屋(赤のハーモニー)』が
パンフレット、駅の掲示広告などの販促素材のメインとして使われてきました。
本作は展示室に一歩足を踏み入れると圧倒される、20世紀アートの傑作です。
しかし、販促物のメインとして使われる作品は、その展覧会のイメージを決定付けてしまいます。
16世紀から20世紀の作品を揃えた展覧会の看板を、最も点数の少ない、
しかも一般に好き嫌いの分かれる20世紀絵画から選んだのは、ちょっと微妙な選択でした。
ただ、他に何がというと、これも難しいのですが。
そこに気付いたからか、元々の予定かはわかりませんが、
パンフでは『赤い部屋』とならんでレノルズの『ウェヌスの帯を解くクピド』が併用されています。
これは「第3章 18世紀」の作品で、本展を象徴する絵画としては良い選択だと思います。
しかし、レノルズの知名度が日本であまり高くない点、
ロココの中心地であるフランスではなく、イギリスの画家である点、
本作がレノルズの中ではむしろ異色作であることなど、悩ましい点も多いのですが。
駅の掲示などではこの2点に加えて、ルーベンスの『虹のある風景』と、
モネ『霧のウォータールー橋』の二大ビッグネームが使われているようです。
特別番組放映
5月1日(火)22:00より日本テレビ系で本展の特集番組が放送されます。
ダイワハウススペシャル
「奇跡の美術館 エルミタージュ~2枚のダ・ヴィンチと巨匠が遺した暗号(メッセージ)~」
http://www.ntv.co.jp/hermitage2012/event/index.html
公式サイトを見ると、来日中の作品以外も含めたエルミタージュ美術館の特集番組のようです。
本展のイメージキャラクターである杏さんが旅人としてレポーターを務めます。
・レオナルド・ダ・ヴィンチの2枚の絵に残されたメッセージ
・マティスの傑作《赤い部屋》は最初全く違うものだった!
・レンブラントの代表作《ダナエ》に新事実
やはりこのような番組はミステリー、謎解き風の作りになりますね。
放送は終了しました。この番組についてはこちらに記しています。
http://oldfashioned.cocolog-nifty.com/blog/2012/05/251-75ea.html
*国立新美術館で6月11日まで、企画展「セザンヌ-パリとプロヴァンス」も開催中です。
西洋絵画の大型展併催ということになります。こちらも必見です。
関連My Blog:2012年GW-5月を楽しむ西洋絵画の展覧会を一挙紹介・東京編
http://oldfashioned.cocolog-nifty.com/blog/2012/05/2012gw5-f7c0.html
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公式サイト:http://www.ntv.co.jp/hermitage2012/
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