【言葉】「ツレ」をめぐる関東・関西言語文化論/関西で言う「ツレ」は彼女・彼氏ではなく、友達のこと
NHK大河ドラマ『篤姫』のコンビである宮﨑あおいさんと堺雅人さん主演の
『ツレがうつになりまして。』という映画が公開されました。
原作は細川貂々さんのエッセイ漫画で、
2009年には藤原紀香さんと原田泰造さん(ネプチューン)で
NHKでドラマ化もされています。
といっても、別にこの作品について語ろうというのではなく、
「ツレ」という言葉に着目します。
この作品では「ツレ」を妻から見た夫、配偶者の意で使っています。
しかし、関東ではあまりしない言い方ですね。
実は「ツレ」は関西でよく使われる言葉です。
私は東京出身ですが、20年ほど前に関西で3年間生活した経験があります。
今日は私の実体験に基づく「ツレ」をめぐる関東・関西言語文化論です。
尚、この二地方以外のことはわからないのでふれません。
また、20年前と今では関西の言葉事情も違うかも知れないので、
その場合はご容赦ください。
「ツレ」は同性の友達
最初に結論から入ります。
基本的に関西の人がいう「ツレ」とは同性の友達・友人のことです。
友達のことを少しくだけて表現する言葉なのです。
主に男性が使う言葉ですが、女性が使うのも聞いたことがあります。
異性の友人を指していう場合もあるか?
聞いた記憶はないですが、あるかも知れません。
いずれにしろ、「ツレ」は恋人、彼氏・彼女、夫・妻のことではありません。
考えてみると「友達・友人」というのは少し畏まった言葉で、
使うのに気恥ずかしく感じる面もあります。
「ツレ」は気軽に使えるのです。
関東ではこの関西でいう「ツレ」にあたる言葉がありません。
昔、「ダチ」なんていう言葉がありましたが、一般的ではなかったし、もはや死語でしょう。
「ツレ」をめぐる “関東人” の誤解
さて、関東・関西言語文化のクロスオーバー的体験談です。
20年前、関西の若者が約半分強、関東を中心とする関西以外の
若者が半分弱という環境にいました。
場所も関西、当然関西人のテリトリーです。
そこで関西人がよく「ツレ」という言葉を使います。
関東人はピンときません。そこでどう考えるか。
普通、関東で「つれ」といえば、同行者の意味だと思います。
今、ネット辞書でツレ(つれ)を検索すると以下のようにあります。
『つれ【連れ】
1 一諸に伴って行くこと。一緒に行動すること。また、その人。同伴者。
「大阪まで車中の―ができる」「―があるので失礼します」「お―さま」』
おそらく当時も今も、これが関東人が第一に思う「ツレ」でしょう。
しかし、関西人の使い方はどうもこれには当てはまりません。
で、関東人は更に考えます。
古いけど『つれ合い』という言葉があります。
本来は「連れ」と同義かも知れませんが、一般に配偶者のことですね。
「ちょっと大袈裟だけど、人生の同伴者みたいなニュアンスか。
未婚の男が言ってるなら、彼女のことだろう。」
その結果、こういう会話になります.
関東人「ツレ? ああ彼女のことね!」
関西人「彼女? 違うわ、ツレやツレ!」
何度か見かけた光景です。
ここから更に複雑な誤解も生まれます。
こんな迷解説をする関西人がいました。
「関西では友達をツレと呼ぶ。関東では彼女をツレと呼ぶんや。」
これも違います。
関東人は関西人が「ツレ」と言うのを聞いて彼女の事かと勘違いするだけで、
自分達は普通、彼女を「ツレ」とは呼びません。
しかし、関西人は関東人が「ツレ」を彼女と誤解するのを聞いて、
関東ではそうなのかと、更に誤解する場合もあるのです。
…だいぶややこしくなりました。
さて、それから20年。
昔に比べると関東でも「ツレ」という言葉を聞く機会が増えたようにも思いますが、
それにしても僅かです。
そして、その場合はやはり彼氏・彼女、配偶者を指すことが多いように思います。
これは関西の言葉を誤解して使っているのか、それとも関西と無関係なのか?
『ツレがうつになりまして。』がまさにこの使い方です。
Wikipediaによると作者の細川貂々さんは埼玉の行田出身だそうです。
いかなる経緯で「ツレ」を配偶者の意味で自作のタイトルにつけたのか?
関西弁を誤解したのか、理解していて敢えて逆の意で使ったのか、
あるいは関西とは関係なく自分が考えた、あるいは自然に使っていた、
もしくは周囲が使っていたから?
もっとも、御本人が埼玉出身でも親御さんがどちら出身がわからないし、
ここで推測しても意味がないかも知れませんが。
もしかしたらエッセイの中でふれているのかも知れません。
だとしたら失礼しました。
あるいは、全国には「ツレ」を普通に配偶者の意で使う土地もあるかも知れません。
しかし、ネット検索しても、この件についての記述は多くはないですね。
そして、こんなこともありました。
これは私が東京に戻ってからの話ですが、
知人の男性が関西の女性と付き合ったことがあります。
なかなか個性の強い女性だったようで、男の方が影響を受けて、
関西風の言葉の使い方をするようになりました。
別にいわゆる関西弁を使うのではなく、まさに「ツレ」などと言います。
しかし、やはり彼氏・彼女のことだと誤解して使っていました。
それでは彼女とのコミュニケが成り立たないだろうに、と思ったものです。
ただ、このような誤解が生じる大元の理由としては、
関東人にはどうしても「ツレ」が同性の友人とは、
感覚的に理解し難いという面があるのです。なぜか。
Old Fashioned Club 月野景史
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