【美術】レオナルド・ダ・ヴィンチ『岩窟の聖母』10/1『美の巨人たち』より/天使はなにを指し示す?
先日、このブログでも紹介したように、
10月1日放送のテレビ東京系『美の巨人たち』のテーマ作品(「今週の一枚」)は
レオナルド・ダ・ヴィンチの『岩窟の聖母』でした。
http://www.tv-tokyo.co.jp/kyojin/backnumber/111001/index.html
10月に4週連続で放送される「ミステリー絵画シリーズ」の第1回です。
レオナルド・ダ・ヴィンチ
(Leonardo da Vinci, 1452年4月15日-1519年5月2日)
ルネサンス万能の天才、西洋絵画史上の超有名人レオナルド・ダ・ヴィンチ。
彼が残した数少ない絵画の中でも屈指の傑作『岩窟の聖母』。
とはいっても、『モナ・リザ』や『最後の晩餐』、『受胎告知』に比べれば
知名度が高いとはいえず、誰もが知っているわけではないですね。
そしてまた謎多き絵でもあります。
まず第一の謎は、ほぼ同じ構図の絵が2点存在することです。
改めて紹介しましょう。
パリ、ルーヴル美術館の『岩窟の聖母』
ロンドン・ナショナル・ギャラリーの『岩窟の聖母』
さて、謎が多ければ人々の興味をそそり、絵画の魅力のひとつにもなるのですが、
この絵の場合は主題を示すのすら難しく、“入門”もおいそれとはいきません
そのような絵ですので、30分番組ですべてを語るなど無理な事です。
まずはどうテーマを絞るのかが興味の対象でした。
以下、基本的に私見は挟まず、番組の内容を紹介します。
ややこしくなるので番組の構成には言及せず、骨子のみ記します。
番組ではこの絵の舞台設定については聖書にある「エジプトへの逃避行」とし、
他の可能性への言及はありませんでした。
また、二人の幼子については右側をイエス、左側を洗礼者ヨハネとし、
逆の可能性についてはまったくふれていません。
ミステリとして解題されたのは主に以下2点でした。
・ルーヴル版とロンドン版、どちらが先に描かれたか?
・ルーヴル版に後から描き足された大天使ガブリエルの指先の意味は?
ルーヴル版とロンドン版、どちらが先に描かれたか?
この絵はミラノにある聖堂の祭壇画としてに発注されたものです。
ダ・ヴィンチは当時の慣習に従いデ・プレディス兄弟との共作により絵を完成させましたが、
引き渡しに際してトラブルとなり、長い係争の末のに依頼者の手に渡りました。
最終的に引き渡された絵とはロンドン版の方です。
実はルーヴル版の存在が知られるのは後世になってからです。
17世紀にパリ郊外のフォンテンブロー宮殿で発見されましたが、来歴はわかっていません。
番組ではダヴィンチが研究した光の科学に基づく技法が、
ロンドン版に、より完成した形で取り入れられていることから、
ロンドン版が後に書かれたものとの見方を取っています。
後先の問題でいえば、ロンドン版が後というのは一般的な見解かと思いますが、
番組だけだと、ロンドン版の方が技巧的に「優れた作品」という印象を受けるかと思います。
ここはちょっと面白いですね。
ルーヴル版にのみ後から描き足された大天使ガブリエルの指先の意味?
今回提起された新たなる発見。
ルーヴル美術館が最近見つけ、全貌は来年発表されるそうなのですが、
この番組にだけ少し答えを明かしてくれたことがあるというのです。
ルーヴル版にのみ描かれている大天使ガブリエルの右手。
最新の調査よると、洗礼者ヨハネを指さしているその手は、後から描かれたものだとのこと。
元々はロンドン版と同じく、右手は描かれていなかったそうです。
ではなぜ右手は描き足されたのか。
番組の解釈は、ミラノを傘下に治めたフランス王ルイ12世の指示によるものとしました。
裁判中、レオナルドとレ・プレディス兄弟は自分達に見方してくれるよう、
ルイ12世に嘆願書を送り、レオナルドのファンであった12世はこれに応えています。
番組ではルーヴル版はルイ12世により、フランスに持ち込まれたものと推測しました。
(このことは記録には残っていません)
そして12世は天使の右手を書き加えさせた。
ヨハネを指さすことにより、絵の主役は聖母子ではなく、ヨハネになります。
何故、ヨハネを主役にしたのか?
ルイ12世の元王妃ジャンヌ。
病弱で子どもが出来なかった為、離縁となりました。
ジャンヌのラテン語読みはヨハンナ、男性名だとヨハネです。
ルイ12世はこの『岩窟の聖母』に、この薄幸の元王妃への思いを込めたというのです。
以上、番組が示したひとつの見解でした。
これ以上の解題は後世に譲るとして締めくくっています。
とりあえずややこしくなるので、解釈についての私見は書きませんが、
番組の感想としては、初心者向けには少し解り難かったかも知れませんね。
« 【ダンスイベント】第31回三笠宮杯全日本ダンススポーツ選手権 9/11/ 熱闘グラフ | トップページ | 【音楽】知られざる名曲/昭和50年代女性アイドル編 »
「03.美の巨人たち (TV東京系)」カテゴリの記事
- 【美の巨人たち】小林薫が降板し『新美の巨人たち』としてリニューアル(2019.04.13)
- 【美の巨人たち】 2/16放送 アンリ・ルソー作『戦争』 /あまり「下手」と言わないで(2019.02.17)
- 【美の巨人たち】アングル『グランド・オダリスク』とドラクロワ『民衆を導く自由の女神』(2017.03.19)
- 【美の巨人たち】3/5は「ナイトホークス」 エドワード・ホッパー/20世紀米国を代表する傑作絵画(2016.03.03)
- 【美の巨人たち】ミレー『羊飼いの少女』1/23放送/ミレーを国民的画家に押し上げた作品(2016.01.23)
コメント
トラックバック
この記事へのトラックバック一覧です: 【美術】レオナルド・ダ・ヴィンチ『岩窟の聖母』10/1『美の巨人たち』より/天使はなにを指し示す?:
» サトケン歴史小説『王妃の離婚』もビックリ!な解釈のダ・ヴィンチ絵に想いを込めたルイ12世の秘話 [薔薇に恋したお月様]
10/1放送の 『美の巨人たち』ミステリー絵画シリーズ
「岩窟の聖母」(レオナルド・ダ・ヴィンチ)
を御覧になった方いらっしゃいます!? [続きを読む]
« 【ダンスイベント】第31回三笠宮杯全日本ダンススポーツ選手権 9/11/ 熱闘グラフ | トップページ | 【音楽】知られざる名曲/昭和50年代女性アイドル編 »
【美術】レオナルド・ダ・ヴィンチ『岩窟の聖母』10/1『美の巨人たち』より/天使はなにを指し示す?
を拝見して。
とても興味深いお話をうかがえてありがとうございました。「美の巨人たち」は大体毎週見ているのですが、10月1日は外出していて見られませんでしたので。
番組で言っていたという、
1.ルーブル版のガブリエルの右手は後から描かれたものである。
2.描かせたのはルイ12世である。
という指摘、説ですが、ふたつともあり得ないと思います。
その理由は、
1.「岩窟の聖母」(ルーブル版)には、歌の楽譜が隠されており、縦軸の音階のG(ソ)音の位置を、ガブリエルの人差し指が示している。つまり、レオナルドは音階の指示をするためにあの右手を描いている。3で挙げているが、あの右手はGの文字のつもりで描いている。
2.その歌の中で、ガブリエルの右手人差し指が示す音符は、終始音のまえのきわめて重要な音を示している。おそらく、絵の構図を決める前に、歌の歌詞とメロディは決めているはずなので、右手を後から描き加えることは考えられない。ある程度の修正をする、ということはありうるだろうが。
3.それに加え、洗礼者ヨハネを、それとわかるように右手人差し指で示している。あの右手をよく見ればGの文字に見えるはず。グッドデザイン賞のGのマークに似ていませんか(笑)。それから、イタリア語でヨハネはGiovanniと書く。
4.同時に、天使はウリエルではなくガブリエル(Gabriele)であることを伝えている。
5.また、同時に右手の下に位置するイエス(イタリア語ではGesùジェズと書く)と、その左手を見ろという意味に使っている。
6.イエスの左手は、地上の善き者に平和を授けている図である。ミサ通常文のグロリアの歌詞の一節である。つまり、歌の一つはグロリアである。(歌はあと3曲ある)
他にも理由はあるが、到底書ききれないのでここまでにするが、番組で言っていた二つの事柄は、いま6つ挙げた理由で十分に反駁できると思う。ルーブル側が私の説を聞いて、本当に描き加えたものか、十分な再調査を加えて、新たな事実が分かれば、それはそれで大変興味があるが、残念だが、耳に入らないだろう(笑)。
私の説を詳しくお知りになりたい方は、拙著「隠された歌は真実を告げる」第2巻(電子書籍)をご覧いただきたい。(ちなみに第1巻は「最後の晩餐」に隠された歌について詳述しています。)
長文失礼いたしました。
投稿: 生江隆彦 | 2011年11月11日 (金) 04時09分