【アニメ】『ルパン三世』苦難の誕生ヒストリー基礎知識/アニメ化40周年
アニメの『ルパン三世』第1シリーズの放映開始は1971年10月。
今年2011年、生誕40周年を迎えます。
以前、『ウルトラマン』と『仮面ライダー』、日本代表する二大実写ヒーローの
生誕時の苦闘を書いたことがありますが、
『ルパン三世』はそれ以上の苦戦を強いられました。
『ウルトラマン』と『仮面ライダー』は苦難がありながらも、すぐに大成功を納めましたが、
『ルパン三世』は苦難のうちに一旦終了してしまいました。
一度は失敗作の烙印を押され、消えていきかけたのです。
それがなぜ、40年後の現在まで続く人気シリーズとなったのか?
今回は「秘話」というほどではない、よく知られた話ではありますが、
アニメ版『ルパン三世』誕生ヒストリーの超入門編です。
テレビ第1シリーズの誕生と終焉、第2シリーズの登場までをごく簡単に記します。
アニメ『ルパン三世』誕生 超入門編
『ルパン三世』(TV第1シリーズ)
1971年10月24日-1972年3月26日 毎週日曜日19:30-20:00 全23話
制作:よみうりテレビ・東京ムービー 放送:日本テレビ系列
*後のテレビシリーズや映画版と区別する為、「TV第1シリーズ」「第1期」
「ファーストシリーズ」、以前は「旧ルパン」との呼び方もされました。
原作漫画『ルパン三世』
原作漫画の作者はモンキー・パンチ氏。
1967年7月に双葉社の「週刊漫画アクション」創刊号に連載が開始され、
1969年5月に一旦終了しています。
その後、アニメ化に合わせ1971年に『ルパン三世 新冒険』として再開されます。
アニメ化へ
アニメ化の構想は1969年頃からあり、アニメ制作会社の東京ムービーにより、
この時期に13分ほどのパイロット・フィルムが制作されています。
(パイロット版については、下記の展覧会鑑賞記の中でふれています)
1971年、よみうりテレビ(日本テレビ系)日曜19:30枠での制作・放送が現実化します。
演出は大隅正秋氏(現 おおすみ正秋)が担当。
元々、「漫画アクション」は大人向け漫画誌で、『ルパン三世』も大人向けでした。
ですから、アニメ化にあたっても大人向け路線が志向されました。
わかり易い表現をしてしまえば、ハードでバイオレンス、セクシーな内容です。
1971年10月24日、記念すべき第1話「ルパンは燃えているか・・・・!?」が放映されますが、
残念ながらいきなり6%という、当時のアニメの水準からは極めて低い視聴率でのスタートとなりました。
東京ムービーは前月まで日本テレビの土曜19時枠で伝説的な人気スポ根アニメ『巨人の星』を制作しており、
『ルパン先生』は東京ムービーとしては実質的に『巨人の星』の後番組になるのですが、
そこで視聴率急落という事態を招いてしまったのです。
当然、子ども番組として相応しくない「ハードでセクシー」な内容が問題視されました。
最初から視聴率が低いのだから、内容のせいではないようにも思えますが、
(前半からセクシーシーン全開なので途中でチャンネルを変えられた可能性はありますが)
第2話・3話は更に下がり局上層部も問題視し、路線の修正を余儀なくされます。
しかし、演出の大隅氏はこれを拒否、降板してしいます。
あのジブリの二人の登用
演出家の降板で危機に瀕した制作サイドは、当時東京ムービーの下請けだった
Aプロダクション(後のシンエイ動画)所属の、高畑勲氏と宮崎駿氏に演出を依頼します。
そうです、後のスタジオジブリのあの二人です。
二人は名前は出さず、「Aプロダクション演出グループ」のクレジットで制作に関わりました。
そこで内容も軌道修正されます。
簡単に言えば、ハード→ソフトへの路線転換です。
当然、暴力的なシーン、セクシーなシーンは抑制されました。
といっても、すぐに次回放送分からすべて変えられるわけはありません。
とりあえず大隅氏により完成しているものを放送しながら、
大隅演出で途中まで製作が進んでいたものを、手直しをして仕上げ、
次いで、一から高畑・宮崎氏による作品の制作に取り掛かりました。
ですので、ごく大雑把にいうと、ファーストシリーズ全23話には以下三パターンが、
概ね放送話順(若干混在有り)に存在しています。
・大隅演出版
・大隅途中まで→高畑・宮崎仕上げ版
・高畑・宮崎演出版
上から下にいくにしたがってハードからソフトになっていくと理解すれば、
短絡に過ぎるかも知れませんが、まぁ解り易いです。
さて、この路線変更による高畑・宮崎コンビにより視聴率が上昇、人気番組になっていたら、
この時点で伝説が生まれていたのですが、そうはうまくいきませんでした。
視聴率は若干改善の傾向はみられたようですが、満足のいく数字には程遠く、
混乱のうちに全23回で『ルパン三世』は最終回を迎えてしまいました。
混乱を象徴するかのように、僅か23回の放送でオープニングが大別して3パターン、
細かくいえはもっと変更されています。
これが後に様々な伝説を生む要因になるのですが、それはまたの機会に。
高まる評価
こんな感じであっさり終わってしまった『ルパン三世』。
それがなぜ、そう時を経ず評価されたのかといえば、度重なる再放送によってです。
当時、夕方18時台は各局ともアニメや特撮等、子ども向け番組の再放送の時間帯でした。
このおかげで、当時の子ども番組は広い世代に視聴され、支持されたのです。
しかし、『ルパン三世』については不思議な面もあります。
はっきりいえば「暴力的でエッチ、子どもに相応しくない」という理由で打ち切られたアニメです。
それを夕方6時に再放送するでしょうか?
大らかな時代だったからなのか、
それとも、テレビ局の中に『ルパン』の価値を理解している人がいたのか?
ともかく、再放送の度に『ルパン』の人気は高まっていきます。
あくまで私見ですが、ますば高畑・宮崎路線のエピソードに人気が集まり、
追って大隅版の人気が高まっていった感があります。
これは、観る側の子ども達の年齢も再放送の度に徐々に上がっていたことにもよると思います。
(当時はもちろん、大隅版、高畑・宮崎版などという事情はわかりません。
しかし、前半のハード路線から後半のソフト路線に変更されていってることは理解できました。)
第2シリーズ開始
そして1977年10月、再放送での人気の過熱に押され、待望の第2シリーズが開始されます。
第1シリーズの終了が1972年の3月ですから、それから5年半後のことでした。
タイトルは第1シリーズと同じく『ルパン三世』です。
特に「新」とか「PartⅡ」とか付けなかったので、後で区別するのが少しややこしくなりました。
『ルパン三世』(TV第2シリーズ)
1977年10月3日-1980年10月6日 全155話
第2シリーズは高い人気のうちに丸三年間続きました。
三年の長丁場でしたから、内容的には玉石混合の面もあったかと思います。
ところで、本放送時には散々だった第1シリーズが評価されたのだから、
大隅正秋氏や高畑勲・宮崎駿氏両氏の仕事も評価され、
三顧の礼で迎えられ、第2シリーズに関わったのでしょうか?
大隅氏は一切関わりませんでした。
『ルパン』については長く語ることさえ拒否してきましたが、
だいぶ後になって、1993年のTVスペシャル『ルパン暗殺指令』で22年ぶりに演出を務めました。
あの二人は…、高畑氏は関わりませんでしたが、宮崎氏は2本演出しています。
全155話中の第145話と最終話なので、終盤になってからです。
そしてこの第2シリーズ放映中に2本の映画版が制作されます。
その2本目が宮崎駿監督『ルパン三世 カリオストロの城』(1979年12月公開)です。
これがアニメ映画の巨匠となる宮崎氏の映画初監督作になります。
時系列でいうと『カリオストロ』が先で、その後にTV第2シリーズの2本を手掛けています。
しかし宮崎氏のルパンとの関わりは、『カリオストロ』とこのテレビ2本が最後となりました。
資料的なことはWikipediaでも参考にしていただければいいと思いますが、
第1シリーズと第2シリーズのレギュラーメンバーの声優の変遷だけ記しておきます。
ルパン三世:山田康雄
次元大介:小林清志
峰不二子:二階堂有希子→増山江威子
石川五ェ門(五右ェ門):大塚周夫→井上真樹夫
銭形警部:納谷悟朗
不二子と五ェ門の声優さんが交代しています。
二階堂さんという方は、第2シリーズの時点ではほとんど活動されてなかったのではないかと思います。
その後のアニメ版『ルパン三世』はテレビシリーズとしては『ルパン三世 PartⅢ』(1984-1985)、
他に多数の劇場用作品やTVスペシャルが制作されてきました。
『ルパン三世』は永遠不滅! と言いたいところですが、声優さんの年齢問題もあります。
既にルパンの象徴だった山田康雄さんが亡くなって久しいですね。
今年、2011年秋には新シリーズが製作されるとの話もあるようですが、どうなりますか。
最後にアニメ『ルパン三世』最初のオープニングを、おなじみのエンディングと合わせて紹介しておきます。
動画を埋め込む
アニソン ルパン三世 1st OP 1971年
自動再生
OnOff
『ルパン・ザ・サードの歌』 チャーリー・コーセイ
第1話-第3話、第9話の計4回しか使用されなかった、大隅ルパンを象徴するバージョン。
しかも一時期は再放送でもまったく流れなくなり、幻となりかけたましたが・・・復活しました。
音楽も映像も、アニメ史上不朽の傑作です。
Old Fashioned Club 月野景史
※アニメ化40周年を記念した展覧会が松屋銀座で開催中されました。
「アニメ化40周年 ルパン三世展」 2011年8月10日(水)-8月22日(月) 松屋銀座8階大催場
この展覧会のレポートはこちら
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