【美術】「国立エルミタージュ美術館所蔵 皇帝の愛したガラス」展 東京都庭園美術館|ロシア美の殿堂から至宝が白金台に/ガラス芸術超基礎知識
東京白金台の東京都庭園美術館にて、
「国立エルミタージュ美術館所蔵 皇帝の愛したガラス」展 が9月25日まで開催中です。
国立エルミタージュ美術館所蔵 皇帝の愛したガラス
2011年7月14日(木)-9月25日(日) 東京都庭園美術館
公式サイト http://www.teien-art-museum.ne.jp/exhibition/glass/index.html
ガラス美術…。
大型書店のアート、芸術書コーナーにいくと膨大なアート関連本がありますが、
ガラス芸術、ガラス工芸に関する書籍は多くはないですね。
特にガラス美術全般を俯瞰できるような平易な入門書は少ないです。
普段の生活にあまりに身近なものですが、美術として鑑賞する意識は薄いのかも知れません。
この夏は本展に加えて、六本木のサントリー美術館で8月10日から10月10日まで
『開館50周年記念「美を結ぶ。美をひらく。」Ⅲ コーニング・ガラス美術館特別出品
あこがれのヴェネチアン・グラス―時を超え、海を越えて』が開催されます。
ガラス芸術の神髄に触れられる夏になりそうです。
(この展覧会についてはこちらで紹介しています。)
今回はこの「皇帝の愛したガラス」展の紹介、またガラス芸術についてほんのさわりだけ書かせてもらいます。
まずガラスのお話の前に、エルミタージュ美術館についてちょっと紹介します。
ロシア国立エルミタージュ美術館
今回の展覧会のテーマがガラス芸術なので、工芸品中心の美術館と勘違いされるかも
知れませんが、そうではありません。
女帝エカテリーナ二世の「隠れ家(エルミタージュ)」と呼ばれた宮殿の威容そのまま、
18世紀初め、ピョートル一世が収集を始め、エカテリーナ二世が拡充したロマノフ王朝の
至宝を公開する為1852年創設、300万点を所蔵する世界屈指の美術館です。
膨大な所蔵品から絵画で一例を挙げれば、彩色済み完成品は十数点しか残っていない
レオナルド・ダ・ヴィンチの絵画2点(そのうち1点は真贋論争がありますが)、
バロックのカラヴァッジョやルーベンス、その後のロココ絵画の傑作、
モネ、ルノワールら印象派、ゴーギャン、セザンヌらポスト印象派、マティスら近代絵画の傑作、
そして特にレンブラントは奇跡の裸体画『ダナエ』など23点を所有するなど、
西洋絵画垂涎の芸術品に溢れた美術館です。
エルミタージュ美術館公式サイト(英語版)
http://www.hermitagemuseum.org/html_En/
ガラス美術史超入門編
ガラス工芸の歴史は紀元前数千年まで遡ります。
紀元前2000年代にはシリア、メソポタミアで本格的ガラス製品が作られていたといいます。
これはどちらかといえば博物館の世界ですね。
私たち初心者が美術品としてガラス作品を勉強し始めるには、
まずは15世紀後半に勃興し、16世紀に全盛期を迎えた
ヴェネツィアンガラスを起点にすればいいかと思います。
今回の展覧会も第一章はヴェネツィアから始まります。
ヴェネツィア(Venezia)のガラス
ベネチア、ベネツィア、ヴェネチア…、表記が色々あってややこしいですね。
一応、本展の表記に倣い、本項ではヴェネツィアとします。
ヴェネツィアでは13世紀半ばにガラス同業組合が結成されます。
その後、全工房はヴェネツィア本島の北東にあるムラーノ島に移り、
ここをガラス製作の拠点として、技術を発展させてきました。
そのガラス工芸が本格的に開花する15世紀後半、
ヴェネツィアは軍事力・海運力に優れた港湾都市、都市国家として繁栄していました。
当時、芸術ではまさにルネサンスの時代。
ヴェネツィアより南のフィレンツェ、そして教皇庁のあるローマにはダ・ヴィンチに続き、
ミケランジェロ、ラファエロが登場、ルネサンス最盛期を迎えました。
ヴェネツィアでも15世紀後半には画家ではベリーニ一族などが登場、
16世紀にはジョルジョーネ、ティツィアーノ、ティントレットが活躍し、
ルネサンス・ヴェネツィア派は最盛期を迎えます。
まさにその時代、ヴェネツィアン・ガラスも高い技術と洗練されたセンスで、
高級工芸品としてヨーロッパ全土に名声を轟かせ、全盛期を迎えたのです。
主にムラーノ島だけで作られていたガラス製品と、
ルネサンス絵画との直接的関係は深くはないかも知れませんが、
西洋絵画に詳しい方なら、ヴェネツィア派美術とヴェネツィアンガラスを重ねて覚えれば、
ガラス美術の歴史の全体像の超概略が見え易くなると思います。
そして17世紀以降、ガラス芸術はボヘミア、イギリスなどヨーロッパ各地に伝播、
19世紀には市民革命による社会の変革、また万国博などでグローバルに多様化し、
更に19世紀末にはアール・ヌーヴォー、続くアール・デコの隆盛などより
新たな展開を見せていきます。
このような流れも西洋絵画史、西洋美術史と重なる面があるかも知れません。
東京都庭園美術館/「国立エルミタージュ美術館所蔵 皇帝の愛したガラス」 展緑に囲まれた美術館 夏景
本展ではロマノフ王朝によって収集・継承されてきたヴェネツィアンガラスを初め、
ボヘミア、イギリス、スペイン、フランスなどの欧州各地の作品約130点を展示、
まさにガラス美術史を俯瞰できるのに加え、
18世紀にエカテリーナ2世によって設立された帝室ガラス工場の製品を中心とした
ロシアガラス40点が展示されています。
ロシアガラスの白眉にふれるのは、なかなか稀少な機会でしょう。
展示は3つのブロックに分かれています。
①ルネサンスからバロックの時代へ
(1)水の都の幻想-ヴェネツィア
(2)深い森 光と影-ボヘミア、ドイツ、フランス
(3)南国の情熱 土の香り-スペイン
上述のように、ヴェネツィアを起点として発展し、各地に広がっていった、
15-18世紀にかけての近世ヨーロッパガラス美術史を一望するイメージです。
②ヨーロッパ諸国の華麗なる競演
(1)技巧と洗練-ヴェネツィア、イギリス、フランス、オーストリア、ボヘミア、ドイツ
(2)手仕事の宇宙-装飾品
(3)新しい夜明け-アール・ヌーヴォー、アール・デコ
新たな時代19世紀から、独特の芸術が乱舞した19世紀末、そして20世紀へ、
新しい技術、新しい感覚のガラス芸術が紹介されています。
③ロマノフ王朝の威光
本展ならでは、ロシアのガラス美術が紹介されています。
ロシアのガラス製造技術は18世紀半ばに円熟期を迎え、18世紀末には
エカテリーナ二世が設立に関わったガラス工場が帝室工場として整備されます。
珍しいロシアガラス。同国ならではのウォッカグラスや、
4種の飲み物(ウォッカ、ラム酒、マディラ酒、ワイン)を同時に容れられる
デカンタなど、ユニークな工芸品も展示されています。
なかなか楽しく、ガラス美術初心者には嬉しい展覧会だと思います。
もっと多くの人に訪れてほしいと思いますが、ただこの美術館の特に二階フロアーは
各展示室が狭く、一室に3~4人入ると息苦しくなるのがちょっと残念ですが。
今回、ひとつ感心したのは目録です。
それぞれの作品について制作技術や来歴が詳しく書かれていて、丁寧な作りでした。
欲をいえば、展示会場内に掲示されていたガラス用語の説明がわかり易かったので、
それを目録に載せてほしかった。
「ヴェトロ・ア・レトルティ」「エングレーヴィング」…ガラス用語は難しいです。
そうであれば目録も更に見易く、わかり易かったでしょう。
類似の展覧会
上述のように、この夏は東京で他にもガラスの展覧会が行われます。
開館50周年記念「美を結ぶ。美をひらく。」Ⅲ コーニング・ガラス美術館特別出品
あこがれのヴェネチアン・グラス―時を超え、海を越えて
六本木のサントリー美術館 8月10日(水)-10月10日(月)
http://www.suntory.co.jp/sma/exhibition/11vol04/index.html
こちらの表記は「ヴェネツィア」ではなく、「ヴェネチアン」ですね。
この展覧会についてはこちらで紹介しています。
更にこんな展覧会も開催中です。
もてなす悦び—ジャポニスムのうつわで愉しむお茶会
丸の内 三菱一号館美術館 6月14日(火)-8月21日(日)
http://mimt.jp/omotenashi/
ガラスだけではないですが、ジャポニズムの工芸美術の数々が出展。
この展覧会についてはこちらで紹介しています。
暑く長くなりそうな夏、涼しげなガラス美術がぴったりかも知れません。
庭園夏景
この展覧会では「ブロガーご招待」の企画があったのですが、私は落選でした。
当選なら館内の撮影が可能だったので、美しいガラスを是非写真でと思っていたのですが、その点は残念でした。
ですので、庭園の夏景色など写真で紹介します。
展覧会、庭園鑑賞後は美術館正門脇のカフェレストラン「cafe 茶洒 kanetanaka」で喉を潤します。
やはりこの暑さ、特に炎天下の庭園散策の後は、ワインよりもとりあえずビールとなります。
鴨と赤味噌の酒彩
相変わらず上達しない下手な写真ですが、涼しげ雰囲気は少しは出ていますでしょうか。
実際はこの日は酷暑でかなり消耗しましたが。
my mixi
http://mixi.jp/show_friend.pl?id=25686164
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