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2011年1月16日 (日)

【美術】洗礼者ヨハネ超入門・西洋絵画鑑賞上の基礎知識/使徒ヨハネ、サロメ、聖母子像

Leonardo_da_vinci_025レオナルド・ダ・ヴィンチ『洗礼者ヨハネ』(1513-16年頃)


西洋絵画において様々な姿で描かれる、洗礼者ヨハネの超入門編です

西洋絵画はキリスト教、つまり聖書を主題としたものが多く、多少の知識がないと絵の意味が判らないことがよくあります。
逆にいえば、西洋絵画を少し勉強しようとすれば、必然的にキリスト教についても、少しは勉強する事になります。
最近は絵画をテキストとして、聖書を解説する出版物もよく見かけます。

しかし、これがなかなか難しい。
元々キリスト教信者以外は聖書について詳しくなくて当たり前なのに、更に難解な要素が多くあるのです。

もちろん、イエスと聖母マリアくらいは名前なら誰でも知っているでしょうが、
この聖母子に次ぐくらいの頻度で絵画に登場する人物で「ヨハネ」という名があります。
諸々の要因からこのヨハネがなかなか判り難いのです。

今回は「洗礼者ヨハネ」について、あくまで絵画鑑賞の為の基礎知識として記します。


diamond2人のヨハネ
まず、ややこしい原因として、聖書にはヨハネという名の人物が複数登場するのですが、その中でも特に重要な聖人ヨハネが2人登場するのです。

1人は今回の主題である「洗礼者ヨハネ
イエス・キリストに洗礼を授けた先駆的な聖人です。詳しくは後述しますが、「イエスが授けた」のではなく、「イエスに授けた」人です。

もう1人は「使徒ヨハネ
イエスの弟子である12使徒の1人で、後に『ヨハネの福音書』を記す聖人、その為「福音書記者ヨハネ」とも呼ばれます。
イエスに最も愛された弟子とされ、絵画では若い女性のように美しい姿で描かれる事が多いです。

「洗礼者ヨハネ」と「使徒ヨハネ」はまったくの別人です。

「聖ヨハネ」ではどちらを指しているのか判らないので、区別をする為に頭に「洗礼者」「使徒」を付けて呼ばれるのです。

イエスと12使徒が描かれたレオナルド・ダ・ヴィンチの『最後の晩餐』では、使徒ヨハネはイエス(赤と青の衣)の向かって左隣、ピンクの衣を纏った姿で描かれています。Leonardo_da_vinci_14521519__the_las
重要なヨハネは基本的にはこの2人ですが、成立年次から歴史学的考察をすると、『ヨハネの福音』は実際には使徒ヨハネが記したのではない、との見方もされるようです。
そうなると、「使徒」と「福音書記者」を分けねばならなくなるのですが、絵画鑑賞の基礎知識としては、「使徒ヨハネ」=「福音書記者ヨハネ」でいいと思います。

それではここから本題の、洗礼者ヨハネです。


この人が絵の題材になる際、大別すると三つのパターンがあります。

1.洗礼者としての「洗礼者ヨハネ」
2.斬首での最期と、運命の女サロメ
3.聖母子像のヨハネ

それぞれについて主要な絵画を引用しながら、本当に簡単に解説します。

spade1.洗礼者としての「洗礼者ヨハネ」

ヨハネの母エリザベツとイエスの母、聖母マリアは従姉妹とされます。
つまりヨハネとイエスは親戚で、年齢は僅かにヨハネが上です。

ヨハネはイエスに先駆けて布教活動を行っており、毛皮を纏って荒野で修行をしながら、ヨルダン河で人々に洗礼を授けていました。
そこにイエスが現れ、洗礼を願いでます。
すぐにイエスのことを悟ったヨハネは、自分に方こそ授けられるべきと断りますが、イエスに強く請われて洗礼を授けるのです。


アンドレア・デル・ヴェロッキオ『キリストの洗礼』(1472年頃Leonardo_da_vinci_016
ヴェロッキオの弟子であるダ・ヴィンチの筆も一部入っている事でも知られる作品です。
ヨハネが手にしている十字架の形をした杖と、皮の衣装はヨハネのアトリビュート(持物)です。

絵画ではこの作品のように、イエスの洗礼シーンが重要な画題としてよく描かれるますが、修行者・伝道者としてのヨハネが単独で主役になることもあります。冒頭に掲げたダ・ヴィンチの『洗礼者ヨハネ』もその一作ですが、随分と魅惑的で美青年のヨハネですね。


spade斬首での最期と、運命の女サロメ

洗礼者ヨハネの最期に纏わるエピソードは、運命の女サロメとの関係で有名です。
ヨハネは当時のユダヤ領主アンティパス・ヘロデが、兄弟の妻であったヘロディアを娶った事を批判して投獄されます。
その為、妻ヘロディアは強くヨハネを憎んでいましたが、
ヘロデはヨハネに対して畏敬の念も抱いており、処刑には踏み切れません。

ある祝宴でヘロディアの娘(前夫との子=サロメ)が踊りを舞い、感嘆したヘロデから望みのものを与えると言われます。
娘は母ヘロディアの指示で、ヨハネの首を希望します。
ヘロデは後悔しますが、約束を取り消すわけにはいきません。
かくしてヨハネは斬首されるのです。

この話は有名なので、耳にした事がある人は多いでしょう。
この首を切られる殉教者が洗礼者ヨハネなのです。
聖書ではヘロディアの娘とされ、サロメという名は出てきません。
別の資料を典拠にサロメと呼ばれるようになったようです。
ストーリーとしても母の指示に従っただけで、あまり存在感はありません。
長い歴史の中で除々に存在感を増していったようです。

サロメのイメージを決定的にしたのはオスカー・ワイルドの戯曲『サロメ』(1891年)です。
ここでサロメは獄中のヨハネに横恋慕するが拒絶され、その意趣返しにヨハネの首を望むという物語が創作されました。
ファム・ファタール(運命の女)としてサロメが大きく注目を浴びたのです。

カラヴァッジョ『洗礼者ヨハネの斬首』(1608年)
Caravaggio_001今まさに斬首される瞬間のヨハネ。
バロックを切り開いた天才画家カラヴァッジョ、自らも殺人罪により国外逃亡中の作品。

ギュスターヴ・モロー『出現』(1876年)Moreau_apparition00
躍るサロメの妖艶極まる姿と、その眼前に出現するヨハネの首。
モローは本作を含め、サロメを題材とした作品をいくつか描いています。
それらは劇的で、サロメの存在感が圧倒的です。
あたかもワイルドの戯曲の影響を受けて描かれたように誤解しそうですが、
実は戯曲より20年近く前から描かれています。
ワイルドにインスピレーションを与えたのがモローなのかも知れません。


spade聖母子像のヨハネ

しかし、西洋絵画で最もヨハネを多く目にするのは、聖母子像かも知れません。

聖母子像とは一般に、聖母マリアと赤子のイエスを描いた絵の事ですが。
その絵にもう1人、イエスより少し年長に思われる幼子が描かれてるのを観た事はありませんか。
それが幼き日の洗礼者ヨハネです。

前述のように、聖書にはイエスとヨハネが親戚であったとの記述はありますが、
幼年時代に親しく遊んでいた事を示す記述はないと思います。
親戚であったという事から着想して膨らまされたイメージでしょう。

つまり聖母子像の男の子のヨハネと、サロメの為に首を斬られるヨハネは同一人物なのです。
初めて知ると、なかなか衝撃的な事実ではないでしょうか。

ラファエロ・サンツィオ『牧場の聖母』(1506Raffael_030聖母子像の画家と呼ばれたルネサンス最大の画家ラファエロの作品。
左側の片膝をついた幼子がヨハネです。
楽しげな家族のような光景ながら、十字の杖を手に傅くヨハネの姿には、宗教的な面も感じられます。

ラファエロ『小椅子の聖母』(1513-4年)
Raphael_seggiola00同じラファエロでもこの作品だと宗教性は感じ難いですね。
右端に描かれたヨハネは弟にちょっとやきもちを焼くお兄ちゃんのようです。
美しさ、可愛らしさの極みです。美しさという点で、神々しいといえます。

以上、キリスト教絵画鑑賞の参考になれば幸いです。


*付記
この文章はあくまで絵画鑑賞上の基礎知識としてキリスト教について記しています。正確さを欠く面がある事はご了承ください。もし看過出来ない点がありましたらご指摘ください。

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02.Art 美術 (雑学 コラム)」カテゴリの記事

コメント

リヒアルト・シュトラウスのサロメが好きな美術愛好家と言うか元画廊経営者です。

お恥ずかしい事にモローが描いたサロメはオスカー・ワイルドからと思っていましたが
貴文によって始めてモローの方が先だったと知りました。

また、ヨハネもややこしい存在ですね。
宗教は信仰などを装い悪辣な手法で貧者から金品を集める手段にしか思っていませんし
キリストとか聖書など全く信じないが、宗教や貴族社会が美術に与えた影響は無視出来ませんよね。

近代民主主義社会になって目を見張るような美術品、建造物は皆無なのが残念にも思いますが、人権尊重の代償と思えば仕方が無いとも言えるのでしょう。

S.I さん

コメントありがとうございます。
事実上、このブログにいただいた初のコメントです。

>お恥ずかしい事にモローが描いたサロメはオスカー・ワイルドからと思っていましたが

S.I さんのようなキャリアの方でもそうだったとは驚きですが、私もなんの疑念もなく同じように思い込んでおり、拙文を書くに当たってもそれに沿って書いた後、制作年次をチェックしていて逆だと気付いた次第です。

私は聖書にも他の宗教にも強い関心はありませんが、絵画の題材となった物語として適度に親しんでいます。

とても魅力的な記事でした。
また遊びに来ます!!

就活の送付状さん
コメントありがとうございます。
拙いブログですが、おもしろく読んでいただけたなら嬉しいです。
ところで、変わったハンドルネームですね。

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