ゴッホ超入門/「没後120年 ゴッホ展-こうして私はゴッホになった」六本木 国立新美術館/その生涯、理想郷アルル、ジャポニズム
フィンセント・ファン・ゴッホ(Vincent van Gogh 1853年3月30日-1890年7月29日 没年37歳)
2010年は印象派を中心に19世紀フランス絵画をテーマとした展覧会が、日本で多く開催された年でした。
その掉尾を飾るとでもいうべき「没後120年 ゴッホ展-こうして私はゴッホになった」が
東京六本木の国立新美術館において開幕、10月1日より12月20まで、約80日間に渡り開催中です。
フィンセント・ファン・ゴッホは数多い西洋絵画の巨匠の中でも、日本で一・二位を争う知名度を持つ画家でしょう。
今回の展覧会も大きな話題を呼んでいます。
更に年明けには、九州国立博物館、名古屋市美術館も巡回する全国的なイベントでもあります。
九州国立博物館 2011年1月1日-2月13日
名古屋市美術館 2011年2月22日-4月10日
しかし、そのゴッホは生涯も、創作期間も短く、また波乱に富んだ画家でありました。
今回はゴッホの初歩の初歩、超入門編です。
ゴッホの象徴「アルル」
フィンセント・ファン・ゴッホはその晩年、南フランスのアルルに移り住みます。
現在、ゴッホと聞いて私達がイメージするタイプの絵の多くはこのアルル滞在時の1年3ヵ月ほど、
そして、アルルを離れてサン・レミとオーヴェールで過ごし、亡くなるまでの1年3ヵ月ほど、
合わせて僅か2年半ほどの間に描かれたものである、といって過言ではないでしょう。
アルルはゴッホを象徴する地名です。
アルルでの代表作
今回のゴッホ展には展示されませんが、アルル時代の代表作をいくつか紹介します。
ラ・クローの収穫(1988年)南仏の輝くような陽光の元、ゴッホらしい黄色が印象的。
夜のカフェテラス(1988年)なかなかお洒落なカフェ。明るいテラスと背景の街並、夜空のコントラストが綺麗です。
星降る夜(1988年)今年、同じ国立新美術館で開催された「オルセー美術館展2010『ポスト印象派』」
に出展され、大変な人気を集めました。美しい夜景です。
この他に、高名な『ひまわり』の連作もこのアルルで描かれました。
しかし勿論、ゴッホはアルルで初めて絵を描いたのではありません。
今回の展覧会のタイトルに「こうして私はゴッホになった」とあります。
これは、アルルの時代以降だけではなく、そこに至るまでの軌跡を、
ゴッホに影響を与えた他の画家の作品との比較も含め、掘り下げようというメッセージでしょう。
その短い生涯を本当に簡単に振り返ります。
ゴッホの生涯 超概略
フィンセント・ファン・ゴッホ1853年3月30日、オランダの牧師の家に生まれました。
子どもの頃から気難しい面があったようです。
16歳で美術商のグーピル商会に入社します。まず、ビジネスとして絵に関わったのですね。
この商会には、4歳年下の弟テオも兄に遅れて別の支店に入社します。
(テオは美術商として、その晩年まで物心両面でゴッホを支える事になります。)
しかし、ゴッホは恋愛トラブルもあって仕事の意欲を失い、1876年、商会を解雇されます。
語学教師などを経て、父と同じ牧師を志したゴッホは伝道士として活動を開始しますが、
1879年にまたも免職となります。
これは、その熱心さ、献身ぶりが仇になったしまった為ともいわれます。
画家に
1880年、27歳のゴッホはこの頃、画家を志します。
独学に加え、従兄弟の画家や美術学校でも学びました。
当時は伝道師時代の経験から、また敬愛する画家ジャン=フランソワ・ミレーの影響から、
農民をテーマとした絵が多く、暗いタッチが特徴で、後の絵とは一見した印象が異なります。
この時期も女性トラブルなどがあったようです。1985年に父が死去。
パリへ
1886年、パリにいた弟テオを頼り、ゴッホもパリに来訪します。
当時のパリは印象派など革新的な画家達が頭角を現し、芸術の都となっていました。
ゴッホも画塾に学び、多くの画家達と交流します。
親しかった画家としてベルナール、ロートレック、シニャック、ゴーギャンらが知られます。
ゴッホの絵も明るく、都会的に変化していきます。
まだ評価はされていませんでしたが、才能も開花しつつあり、交遊も広がっていった・・、
しかし、人付き合いの苦手なゴッホにはパリも安住の地ではなかったようです。
アルルへ
1888年2月、ゴッホは芸術の理想郷を求めて、南仏アルルに旅立ちます。
この地で、ゴッホの才能は花開きます。
上で紹介したような絵が次々と描かれました。
勿論、その才能はまだ世間には認められていません。
ゴッホはアルルを自らの創作の場としてだけでなく、
若い芸術家達が共に制作に励む場にし、画家達の共同体を夢見たのです。
その為、知人の芸術家達をアルルに誘いました。
それに唯一人、ゴーギャンが応じたのです。
後にポール・セザンヌ、ゴッホと並び、ポスト印象派の巨匠と称されるポール・ゴーギャンです。
ゴッホはゴーギャンの到着を待ちわびました。
1888年10月に始まった二人の共同生活、当初は順調でしたがやがて齟齬が生じます。
元々、二人の性格は違いました。
12月、再三の衝突の末、ゴッホは自分の耳を切り落とすという暴挙に出ます。
ゴーギャンは去り、村人からも警戒の目で見られるようになったゴッホの精神は病んでいきます。
サン・レミへ
1889年5月、アルルを離れてサンレミの病院に入り、約1年の療養生活を送ります。
発作に悩まされながら、ここでもゴッホは創作を続けます。
筆致は深化し、印象的な作品を残します。模写にも励みました。
しかし、やがて閉塞的な空間に長く留まる事に、不安を感じるようになっていきます。
最期の日々
1890年5月、自らの退院したゴッホは南仏を離れ、オーヴェール・シュル・オワーズの村に移り住みます。
ここでも意欲的に創作を続け、短期間に70点もの作品を残します。
しかし7月、突然拳銃自殺を図ります。
即死には至らず、自力で下宿に戻りますが、二日後の1890年7月29日、駆けつけた弟テオに看取られて死去しました。
そして、そのゴッホを支え続けたテオも半年後、兄を追うように亡くなりました。
短く、波乱に富んだ生涯でした。
ゴッホの死後、その作品が高い評価を受けるようになるまで、さほど時間はかかりませんでした。
もし自殺を選ばなかったら・・、ファンならずとも思わざる得ません。
ゴッホとジャポニズム
19世紀後半のフランスは万国博の影響で、日本の芸術や工芸品がブームとなっていました。
ゴッホもかなり熱心な日本ファンで、400点もの浮世絵を収集し、それは自らの作風にも反映されています。
そのような作品への敬愛のみならず、日本を芸術の理想郷として捉え、アルルに日本のような芸術家の共同体を創造しようてしたとさえいわれています。
はるか東の国、日本に、ゴッホはどのような理想郷をイメージしたのでしょう。
今回の展覧会には、ゴッホの浮世絵コレクションの一部も展示されています。
「没後120年 ゴッホ展-こうして私はゴッホになった」
今回の展覧会にはゴッホの母国オランダのファン・ゴッホ美術館とクレラー・ミュラー美術館から120点ほどが来日します。
展示作からいくつか紹介します。
『じゃがいもを食べる人々』リトグラフ(1885年)初期の傑作『じゃがいもを食べる人々』のリトグラフ。ゴッホ自らプレゼント用に制作。
『籠いっぱいのじゃがいも』(1885年)そのじゃがいもを描いた静物画。
『灰色のフェルト帽の自画像』(1987年)ゴッホは自画像をよく描いた画家です。これはパリ時代の作品。
アルルの寝室(1888年)ゴッホ自らアルル時代最高の作と称した作品。
今回の展覧会ではこの部屋が再現されています。
『アイリス』(1889年)サン・レミでの退院直前、ひまわりと共によく題材とした花であるアイリス描いた絵。
黄色と紫の対比が印象的。
この年の9月にアンデパンタン展に出品され、好評を得たという。
ゴッホ没後の事でした。
国立新美術館
東京展の会場である六本木にある国立新美術館は2007年1月開館の比較的新しい美術館。
作品を所蔵せず、企画展や貸会場を専門とする美術館です。
国立新美術館公式サイト
http://www.nact.jp/
展覧会公式サイト
http://www.gogh-ten.jp/tokyo/
mixi
http://mixi.jp/show_friend.pl?id=25686164&from=navi
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